第28話 《from ラブイズ》28

…ほんの少しずつ

ほんの少しずつ良くなってきたキキョウ。

良くなって

良くなって

悪くなって…

良くなって

悪くなって…

悪くなって…

良くなって

良くなって

良くなって…

文字通り、一進一退を繰り返している。

「お前はアイハが可愛くないのか?」

と何度問いかけただろうか。
いつもする話と言えば病院や病気の仲間の事ばかりだったキキョウ。

「今日はアイハがこうだった」「アイハと今日は〜をした」
という会話が徐々に増えていった。

そんな折りにキキョウがある事を言ってきた。

「家族で一緒に暮らしたい」

一人暮らしを始めて一年。

確かに段々と体調が良くなっていくキキョウがそこにいた。
主治医のサイトウ先生も、「もう大丈夫でしょう」の太鼓判を押してくれた。

よし。

ただ、一つ問題があった。

金だ。
ここ三年間で三回目となる引越し。

キキョウの病院の治療費はおろか、アイハの保育園代、生活費とは別に母親に月々渡す生活費、等々…

幸い借金こそ無かったがギリギリの生活である。

さて、引越しとなると敷金、礼金、前家賃、等々でかなりの額が飛ぶだろう。

そして月々の家賃が加わる。

アイハも大きくなる。

…家を買おう。

そう決めた私はすぐに家族会議を開いた。

「家を買おうと思う」
キキョウは少しびっくりしていたが賛同してくれた。

母親は怪訝そうな顔をしたが、「他に何かいい案はあるか?」の言葉に口を結んだ。

最初は単純に安いという理由で中古住宅を探した。
しかし、中古住宅は築年数に対してローンの長さが決まるらしく、さらに家のメンテナンス費用もばかにならないらしい。

新築なら35年ローンが組めるとの事で、せっかくなので新築にしようと決まった。

そうと決まれば、ハウスメーカー探しだ。

昔からの古い友人が父親と一緒に大工をしていた為に、久しぶりに連絡をして話を聞いた。
色々な話を聞いた。どこそこのあれはあぁだとか、これはいいだとか。
色々なハウスメーカーにも行った。
…しかし、26歳の若い夫婦二人が後ろ楯もなく勢いで飛び込んだところで、やはり舐めてかかられるところばかりだ。
結局、信用の置ける営業マンに当たる事は無かった。

発想の転換をしよう。
その友人が言っていた言葉を思い出した。

結局は建てる大工の腕次第。

そうだ、せっかくの新築を建てるならば、知人に建ててもらおう。

相談した大工の友人の事を思い出した。

友人は驚きながらも快く承諾してくれた。

そして一人の建築士を紹介された。

中年の優しそうなその建築士の社長は友人の腕に惚れ込んで、専属の大工に従えているという人で、「フルオーダーで作ってあげるよ」と快諾してくれた。

結局、設計図がないと大工は家を建てられない。
ハウスメーカーから得られるものは作り方とアフターに対する信用だ。

個人の建築士に注文する場合、いついなくなるかわからないという不安が付きまとう。

しかし、友人に建ててもらう事によって、その建築士がいなくなったとしても安心だ。

友人はあらゆるハウスメーカーの下請けをしており、そのノウハウはもとより、表彰された事もあるらしい。何より、古い付き合いだ。猿の様な身体能力と生き物を飼う際の丁寧な配慮と絵日記から溢れでる集中力の高さを昔から知っていた。

建築士の社長からもだいぶ融通を利かせてもらい、有名ハウスメーカーの技法で素晴らしい家を建ててもらった。
くどいようだが、私には金はない。

もちろん母親にあるはずもなく、キキョウの実家にもあるはずがない。

あるのは勤続年数5年半という信用だけである。
…何とか審査が通る。借金は無いに限る。
私は27歳になった。

35年ローンは自分が生きてきたより長く支払わなければならないけど、早い内の方がいいと前向きに考えている。
そして、母親の家からスープの冷めない距離に一軒家を持つ事に成功した。

from ラブイズ

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