第84話 《回想》1

私には母がいた。

今はサイトウの好意で大学に併設されている大学病院の施設に入所している。

母は重度の精神障害者だ。

物心ついた時から母の奇行に辟易していた私は、逃げるように中学の頃から寮に入った。
やがて奨学金を得て大学に進学したのだが、幼い頃から見ていた母の、その心理状態を理解したいと思うようになり、心理理工学を専攻した。
私が母に最後に出来ること。
そして、私が私として生きてきた証であるあのマシンを証明することしか、私の頭の中にはなかった。

時折サイトウは、心理セミナーやカウンセリングを勧めてきたが、そもそも講師としてその立場に居た私の心を満たす場とは思えなかった。

そして、いくつかのやり取りの後、サイトウは諦めたように、手術の同意書を差し出した。

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