第85話 《回想》2

「…今更だがラブイズ。
法に従い君に説明させてもらうよ。
まずこの手術の同意が必要になる。

始めに穿頭術を行い、7つの穴を頭に開ける。これは脳内気圧を一定に保つ為と、ナノマシンの注入に用いる為だ。

穿頭された後、速やかにSFNSへ挿入。
脳内と体内へナノマシンを注入し、そして君の身体のデータを採取する。
この間が約4ヶ月を要する。
君の身体のメカニズムを理解する為の期間だ。

その後、安定期を見定めた上で副交感神経導入時に伴い、システムを発動、ナノマシンから電気信号が君の脳に送られていく。そしてそこで君にどう影響を及ぼすかは未知数だ。

ひょっとしたら永遠に夢の中をさ迷うことになるかも知れない。
永遠の悪夢だ。

ある意味、現実とは脳が見せている架空であるという定義が立証されるかもしれないがね。
覚醒出来たとしても君の身体にどういう影響を及ぼすかわからない。
それでも…いいんだな?」

私は憮然と面倒臭そうにサイン欄に自分の名前を殴り書きした。

「グッド。
それでは君が望む世界を改めて聞くが、発病してからの君とキキョウの立場を入れ替えた世界、そこで君はキキョウと同じ経験をしたい。
そこまでは聞いているが…ラブイズ…
本当に…いいのか…?」

「…何でもいいから早くしろッ!!イライラして…頭がキレてしまいそうだ…ッ!!」

「…グッド。
人類の進歩に感謝する。
ただ君が知っている通り、君と同じくらい酷くデリケートなマシンなんだ。どちらにしても傷が治らない限りは入ることが出来ない。
だから君も自分の身体をデリケートに扱えよ我が親友よ」

そう言うとサイトウは席を立ち目を伏せがち部屋を出た。

…さっきから視点が定まらない。

この研究所の匂い
白を基調にした部屋
無機質な雰囲気

いや、世の中の全てが私の中の台風を加速させていた。
ポケットにあった精神安定剤を無造作に放り込むと目の前にあったぬるいコーヒーで一気に流し込む。

しばらくは身体が震えて落ち着かなかったが、ややすると気持ちがすぅっと冷めていった。

「抗ストレスホルモンは通常より多目に設定してもらうか…」
頭で考えていたことをふいに口にしていた自分に気付き、なんだかおかしくなった。

ククク…と笑いが込み上げる。

頭の中ではわかっているつもりだ。

神経すらを科学薬品でコントロールしている自分が、時折自分の身体ではないように感じていた。

「サイトウ…もう…マシンの中にいるようなんだよ私は…」

そう呟いて研究所を後にした。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
スポンサーリンク