第96話 《キキョウ》11

「ねぇパパ何時に今日来るのっ!!」

「昨日から言ってるじゃない。もう来るわよ」

「えー!まだ来なーい!パパ早く来ないかなー!アイハね、二重とび見せるんだ!出来るようになったんだよ!」

「ただいまー」

「あ!パパ!おかえりパパー!あー!なにそれー!」

「ふふふ…君達にプレゼントだ!」

「えー!やったー!ママー!パパプレゼントだってー!」

「えー!なになにー?」
キッチンから顔を覗くと、前と変わらない彼がそこにいた。

「…ただいまキキョウ」

「おかえりラブイズ…」

久しぶりに見る彼はなんだか身体が一回り大きくなって精悍な顔つきに変わっていた。
なんだか少し若返ったように見えてドキドキした。

「ねぇねぇパパ!開けていい?」

「いいよ。見てごらん」

「えーなにかなぁ!」

「君も開けてごらんよ」

「やだー何かしらー?」
一心不乱に包み紙を開いていくアイハ。

「きゃーっ!うで時計!アイハほしかったんだー!ありがとうパパ!!うーれしーい!」

「私も腕時計だ…」

「君の時計ももうベルトの部分が古くなっていただろう?アイハもそろそろ自分の時計があった方がいいと思ったし、ちょうどいいと思って…」

「ありがとうラブイズ。とても嬉しいわ…」

前の時計は彼が付き合い始めに買ってくれた時計だった。

とても可愛くてお気に入りでずっと付けていたものだった。

「君が前にあげた腕時計をすごく喜んでくれたのをふと思い出してさ。なかなか私達もいい年齢になってきたし、今の君の格好に合うものと思ってね。」

彼は照れくさそうに頭をかいてそう話してくれた。

「アイハつけるアイハつける」

「あはは…左腕を貸してごらん」

彼が優しくアイハの腕に時計を付けてあげた。
一番小さく留めてもまだぶかぶかで細いアイハの腕で、腕を上げたり下げたりしているとくるくると回っている。
「どうパパ!?ママ見てー!」
キラキラした瞳で彼と私と時計をくるくるくるくる見続けるアイハ。

「はは…良く似合っているよ。キキョウも腕を出して」

「ありがとうラブイズ…アイハ良かったね。」

「うん!大切にするね!パパ!」

「ありがとう。ほらママのも素敵だろう?」

「あー!すてきー!すてきー!」

文字盤に小さな宝石が埋め込まれた、本当に素敵な時計。
キラキラ輝いていて、まるでアイハを思わせるような時計だった。

「…ほら…一応結婚して10年になるだろう?
こんな私でも曲がりなりに家族で居てくれていたから…せめてものお礼だよ。」

居てくれて『いた』という過去形の言葉が心を曇らせていく。

「どうだい…キキョウ?」

「…ありがとうラブイズ…とっても嬉しいわ!」

今日、家族で居られるのは最後かも知れない。

だから少しでも笑って今日を過ごそう。

ーそう心に思った。

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