第97話 《キキョウ》12

「あ!パパー!公園行こう!公園!アイハ、二重とび出来るようになったの見てー!」

「おお!いつの間に出来るようになったんだい!?よしじゃあ行こうか」

「準備は出来てるわよ。今日は公園に行こうと思って朝から張りきっちゃった!」
ジャーン!とサンドイッチを詰めこんだバスケットを高々に上げて彼とアイハに見せつける。

「ママえらーい!ねぇパパ!ママねー朝からがんばってたんだよー!アイハもお手伝いしたんだよ!へへ!」

「おーそれは楽しみだなぁ」

「えへへ〜じゃあ行こうか!」

「行こー!」

「よし行こう!」

少し遠い、いつもより広い公園まで車で向かう。

彼と何度も行った公園。アイハを連れて何度も行った公園。
家族の思い出の公園。

そこに着くまでの間、アイハは最近の学校での出来事を彼に色々教えていた。

その姿をバックミラー越しに見ながら、私も笑って3人で会話をした。

本当に久しぶりの家族での団欒だった。
公園に着くとアイハは一目散に縄跳びを持って広場へ掛けて行った。

後を追って彼と私がついていく。

「パパー!見ててねー!」

しゅたん、しゅたん、しゅたん、しゅたた、びーん。

「もっかい見ててー!」

しゅたん、しゅたん、しゅたた、びーん。

「あ〜もっかい!」

しゅたん、しゅたん、しゅたん、しゅたん、しゅたたびーん。

「ああッ!」

「アイハー!落ち着いてー!」

「ハハハ頑張れアイハー!」

彼と二人、アイハのすぐそばの芝生に腰を下ろして彼女を応援する。

…しゅたたん!しゅたたん!

「できたー!見たー!?」

「おー!見てたよー!すごいなアイハー!」

「えへへー♪もっかいやるから見ててねー!」

…彼は目を細めながら愛娘を見守っている。

私は彼と一緒にアイハを見守る。

図らずも私のささやかな夢が叶ってしまった。

ずっと…
ずっとこんな日を夢見ていた。

一回り太くなって筋肉質に引き締まった彼を見ていると、なんだか出会った頃を思い出す…

ずっとこのままでいられたら…

だけど、これは彼の決意による一時的なものだとも感じる自分もいる…

ふと彼を見ると、神妙な面持ちでアイハを見詰めている。

「…どうしたの?難しい顔をして?」

「あ、ああ…きっと君と同じことを考えていたよ」

「同じことって?」

「もっと早くこうなっていられたらなって…
『健全な肉体に健全な心は宿る』ってね。
最近、調子がいいんだ。
だけど、この安定はマシンに乗り込む決意からによるものだから、限定的なものだとも思う」

「…例えばずっとトレーニングを続けてこのままでいられないの?」

「うん…今考えていたのだけど、やっぱりそれは無理そうだ。
思考の原点にマシンに乗るという考えがあり、そこからの方向線上に筋トレという行動からある。
それをこの生活を維持する為に筋トレを続けていくという思考にはどう未来を模索しても、段々年をとるごとに落ちていく筋肉に歯噛みをし、不安定になっていく自分しか想像出来ないんだ」

「それでも、35歳を過ぎたら気持ちは落ち着くかも知れないんでしょう?」

「それは可能性の話だからね。現代社会は非常に進歩のスピードが早い、それに踏まえて病状の期間が伸びていくかも知れないと言う研究報告も出ているんだ。不確定な未来に不安を抱いて不安定になるより、私は私の意志で私の未来を決めていきたい」

「でも…」

「もう止めよう。せっかくの家族水入らずじゃないか。
大丈夫、うまくいくよ。心配しないで。
ほら今だってこんなに元気になったんだ!
決めたことだから。
…だから信じてほしい」

「ラブイズ…」

「パパー!ママー!見てたー!?」

「おー!見てたよー!すごいなアイハ!どれ!パパに貸してごらん!」

彼は立ち上がってアイハから縄跳びを受け取ると、軽く縄跳びを始めた。そしてその内、シュタタタタタタタタタ!とまるでボクサーのようにその場で走りながら縄跳びを始めた。

「パパすごーい!ねぇ!もっかい見せて!もっかい見せて!」

「ハァハァ、もう一回?どぅれ!」

シュタタタタタタタタタ…!

「早ーい!パパ早ーい!」

「ぬおおおおおおッ!!」

顔をしかめて真っ赤にしながらアイハのリクエストに答える彼を見ていると昔を思い出した。

負けず嫌いで
格好つけで
真面目で
我が強くて
優しくて
一所懸命で
温かくて
繊細で
泣き虫で

たくさんの彼を私は知っている。

…子供特有のしつこいリクエストに懸命に答える彼がへたばりながら、私に手招きをする。

「あ!ママあれ見せて!あれ!」

「あれー?いいよー!」

そして私は二人の前でこの間アイハに見せたあのX飛びをお披露目した。

「ママもすごーい!パパ!あれ!すごいしょ!」

「おー!キキョウ!やるなぁ!」

しゅたん、しゅたん、しゅた…「終〜了〜」
新体操のようにバンザイのポーズを決め、ちらりと横目で二人を見るとパチパチパチパチ拍手をしてくれた。

アイハはちゃっかり彼のお膝元をキープして座っている。

「じゃあ…このままお弁当にしよっか?」

「たーべるー!」
「じゃあ食べようか」

その場に敷物を広げて、3人で座る。

彼と、アイハと、私。

並んでサンドイッチを頬張り、公園の景色を見る。

…様々な幸せそうな家族の姿が目に入る。

私達も今日、その中の一員になれた。

それがなんだかほっこり胸が温まっていく感じがして、知らないうちに涙が溢れ落ちた。

「あ〜ママ泣いてる〜!」

「あれ?目にゴミが入ったかな?」

「…大丈夫かい?」

優しく彼が話し掛けてくれた。

静かで…
響きのある彼の声。

私の大好きな彼の声。
今日のこの日を私は忘れない。

この温かい気持ち
彼の言葉
アイハの言葉
彼の息遣い
アイハの天真爛漫さ
心地良い風
優しい陽の光
青々とした芝生から溢れ出るような新緑の匂い

家族の温かい空気…

…忘れない。

またこの気持ちを重ねていく為にも…

そう心に刻み込んだ。

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