第98話 《キキョウ》13

帰り間際に突然アイハが大きな声を上げた。

「パパからもらった時計がないッ!!」
「縄跳びの時に落ちたんじゃない?」
「探せばすぐ見付かるよ」

すぐに周りを3人で探してみたが見当たらなかった。

「アイハの時計…アイハの時計…パパからもらった時計…」
アイハはすでに泣きそうになっていた。

「…大丈夫。パパとママが見付けてあげるから…」
そう言うと彼はアイハを抱き上げ、歩き出した。
「行こうキキョウ。そんなにあちこち歩いた訳じゃない。歩いた道を探し続ければ出てくるはずさ」

帰り道、3人で歩いた公園をまた歩き戻り、隅々まで見回して探した。

「ないよぅ…パパからもらった時計…」
「大丈夫!絶対に見付かるさ!」

途中にある公園の管理事務所に問い合わせたが、拾得物の届け出は無いとのこと。

駐車場まで戻り車の周りを皆で探していると、いよいよアイハがぐずってきた。
彼がアイハをまた抱き上げるとアイハは「あー!あれはー!?」と声をあげた。

「何?見付かったかい!?」
「あれー!あそこあそこ!」

ふと公園入口の駐輪場を見ると、なんだか時計らしきものが落ちている。

アイハが駆け足で向かう。
その後を彼と私が追い掛ける。

そこまで辿り着くと、アイハはその小さな肩を震わせてしゃくりあげて泣いた。

「ひぐ…ひぐ……ぅぅぅ…うわあぁぁぁぁぁん!うわあぁぁぁぁぁん!」

足下を見ると、そこにアイハの時計があった。
踏みつけられて文字盤が割れたアイハの時計がそこにあった。

彼はひざまづき、アイハをそっと抱き締めた。

「…また…買ってあげるから…」
「イヤだッ!これがいいッ!パパがえらんだくれたこれがいいッ!!」
「…そうか…そうだよね…よしよし、じゃあママに言って時計屋さんで直してもらおうか」
「私は嫌ッ!!」

びっくりして彼とアイハが私を見上げた。
私も泣いていた。
「…あなたが…あなたが直してあげるの…私じゃなくて…あなたが直してあげるのッ!!」

「…わかったよ…じゃあこれからその時計屋に行って…」

「ダメ!あなたが帰って来てから直すのッ!今日は家族で一緒に居るのッ!ぅぅぅ…ぅぇぇぇぇん…ぅぇぇぇぇん…」

「…キキョウ…」

「ぐずっ…ぐずっ…ママ…ごめんなさい…」

「ぅぇぇぇぇん…ぅぇぇぇぇん…ぅぇぇぇぇん…ぅぇぇぇぇん…」

彼はアイハを抱き上げながら、私を抱き締めてくれた。

「…わかったよ…キキョウ…そうしよう…」

夕暮れ時の帰宅する人達が私達の周りをすり抜けていく中、しばらくその場で彼は私とアイハを抱き締め続けた。

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