第110話 《キキョウ》25

ワンコールを待たずに博士は出た。

「サイトウ博士ですか!?キキョウです!彼が!彼が…!」

「キキョウ…?
キキョウかい?ラブイズに何かあったのか?」

「彼が!彼が急に…!」
「OKわかったよキキョウ。まずは君が落ち着こう。ゆっくり深呼吸をして…そう、もう大丈夫だ。
さて冷静に説明してくれるかい?」

優しく言葉を受け止めてくれた博士に私は幾分か冷静になりながら、帰って来てから今までのことを口早に説明した。

「そうか。わかったよキキョウ。大変だったね。ではまず、こちらから救急車を静かに出動させるから、君はラブイズのそばにいてやってくれないか?
後はラブイズについて一緒にこちらに向かってくれ。
出来るかな?」

「私は…私は何をすればいいの!?人工呼吸とかしなくていいの!?」

「大丈夫。ただそばに居てくれたらそれで大丈夫だよ。キキョウ。とにかくそばにいるだけ、それでいい。後はここで話そう。いいね。一旦電話を切るよ」

そう言うとゆっくり博士は電話を切った。

彼はその間、涙を流し続けていた。

「あ…!く…!」
と時折苦しい声をあげて何かに耐えていた。

今の自分ならわかる。

彼の心のキャパシティがオーバーしたことによる心因反応だということが。

ただその時は、彼が死んでしまうのではないかと思って。

彼がいなくなってしまうんじゃないかと思って。

彼の苦しさがわからない自分にもどかしさにも似た焦燥感を感じながら、早く救急車が来るのを彼のそばで祈り続けた。

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