第111話 《キキョウ》26

博士の元へ辿り着くと、博士は彼を診察して点滴を施した。

彼が点滴を受けている間、私は博士の研究室へ初めて呼ばれた。

研究室の博士の机には彼と博士が肩を組んで笑っている写真があった。

そこで私は博士から彼の生い立ちを聞いた。

彼の父親はいないこと。
母親から虐待を受けていたこと。
彼が一人で生きてきたこと。
私が初恋だということ。
彼が母親のことで悩んでいたこと。
母親のことと私のことで悩んでいたこと。
博士は一通り話終わると確かめるように私に言った。

「それでも彼と一緒に居ることが出来るかい?」
私は「出来る」と答えた。

私も父子家庭だった。

不器用な父親と二人きりで暮らしてきた。

彼の気持ちも少しはわかった。

私は父が嫌いだった。

不器用で
寡黙で
私のことなんか何もわかってくれない父が嫌いだった。

今は…

今では少し父の気持ちも分かるような気がする。

子供を育てるということ。
寡黙で不器用だった父。
料理なんてほとんどしなかった父。
会話らしい会話はほとんど無かった父。

それでも父は父なりに私を愛してくれたのだと今は思う。

だけどその時の私にはわからなかった…
その時の私は彼が全てになっていた。

そして、私が彼の本当の家族になろうと心から誓った。

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