第153話 《キキョウ》39

フリースクールは街中にあった。

緑に囲まれたその建物は学校というより児童館のようだった。

中に入ると、一人の女性職員と目が合い、
「誰かの紹介?」
とにこやかな笑顔で対応してくれた。

私はなんだか場違いなような気がして身体を強張らせてしまった。

初めての場所が、
初めての人が、
怖かった。

「名前は?」
「…葉内…桔梗…です…」

なんとか声を振り絞るように出すと、その職員の顔がパァッと輝いた。

「葉内桔梗さんね!安田さんから聞いていますよ。さぁこちらに」

言われるがまま、ホールのソファを勧められて腰を下ろすと、その職員はこのスクールの案内書を持って来て、説明を始めた。

ここはいわゆるNPOというところで運営されており、登録をするだけで自由に何でも学べるところで、来るのも来ないのも自由だし、人に迷惑を掛けなければ何を学んでも良いとのことで、退職した教師などが何名かボランティアで滞在しているらしい。
知りたいことを聞いたり、一緒に調べてくれたりしてくれるとのこと。

「…安田さんのことは残念でしたね…安田さんはあなたのことを熱心に話していました。きっとここならあなたの力になれるってね。ただ、ここは学校ではありません。入学も卒業も資格も何もありません。でもたくさんの人が出入りしていますから、きっとあなたのこれからが見付かると思いますよ」

田中というネームプレートを下げたその女性の言葉に何だか怖い感じがしてその日は帰った。

それから何日も大通公園でフリースクールの案内書を見た。

安田さんは私に何をさせたかったのだろうか?

学校なんでどこも同じじゃないか?

また汚いと言われないか?

ただ、肌の調子はだいぶ良くなっていた。

頭もクリアで、色々なことをイライラせずに考えられるようにもなっていた。

これが安田さんがくれたものなら、この先には一体何があるんだろう。

幾日も幾日も考えた末に、私はフリースクールにまずは行ってみようと思い立った。

その理由の大部分は、外で座っているのが寒く、辛くなってきたからだった。

とりあえず寒さがしのげる場所があればいい。

でもまた私は嫌われるかも知れない。

でも…
でもその時はそこに行かなければいいか。

その時
私はその時に初めて、
自分の決意で
自分の進む第一歩を踏んだんだと思う。

それは、普通の人から見たらなんてことはないことなのかも知れないけれど、昨日までの私には無かった初めての“勇気”が為せた第一歩だった。
今でこそ“勇気”の必要性は身に染みてわかる。

そしてそれは『自分で決める』という決意の現れだ。

人からの視線が怖かった自分が得た初めての勇気はヤスダタミコが与えてくれた。

そしてそれは幸いにも私に生きる力を与えてくれた。

違う環境に飛び込んでみる勇気。

アイハに小さい頃から教えてきた。
だからこそ向こう見ずにも育ってしまった訳だけど、私はそのことを今でも大切なことだと思っている。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
スポンサーリンク