第157話 《キキョウ》43

そんなことを思い巡らしているうちに博士から電話が来た。

「キキョウ。調子はどうだい?」

「まぁまぁかな?今日はどうしたの?」

「うん。『from ラブイズ』に進展があったからお知らせしようと思ってね。今は電話してもいいかな?」

「うん、大丈夫よ。進展って?」

「そうなんだ!聞いてくれるかい!?
前に話した通り『from ラブイズ』を追っていく為には、彼がマシンに入っていた7年間程は解析に掛かるんだが、ようやく半年程進んだんだ!
この調子で行けば、彼が何をどう感じていたのかが解析出来る。
キキョウ、ラブイズは君の気持ちを周到しているようだ。
私が懸念していたのは君の経験を彼が彼なりに解釈していたとしたら、プログラムした記録と徐々に違う記憶が重ねられていくことにより、ついには記憶は夢ととられるか、現実との不条理にラブイズの脳がついていけなくなることだったんだ。

これまでの記憶では、ラブイズはマシンの中の君が入院したところまで感情を共有しているようだ。

ただ、長い記憶の中で君が徐々に不安定になっていく様子を彼がどう解釈していくかはまだわからないがね。

…キキョウ、私もこの間ラブイズと話したんだがね、彼が言うには『思考の方向性の根底には感情がある』との見解を示したんだ!
どういうことかというと、君が記した感情の記憶を彼が周到していることが、今回の日本行きに於ける彼の行動に起因している可能性があるということだ。

君がラブイズとの記憶を示してくれた時に、君の幼少の頃の記憶も話してもらったのを覚えているかい?
あれも当然ラブイズの記憶に組み込んでいる。

ただ、ラブイズの場合は母親との確執があったからどう記憶に組み込まれているかはまだわからないがね。

キキョウ。
あくまでも推測だが、この度のラブイズの行動は君の本当の感情が根底にある可能性があるということだ。

それについてはどう思うかな?」

博士はまるで学生に意見を求めるように淡々と私に言った。

…私の感情が彼の行動の根底にある…?

「…キキョウ?」

「…ごめんなさい博士、少し混乱してしまって…
つまり私が本当は父の気持ちを知りたい…って…」

最後の方は涙で声が詰まりながらの言葉だった。

それから喉がキュウっと締まったようになって、鼻の奥がツゥンとしびれたようになり、上手く声が出せずに、言葉にならない声がえづきながら音を発するだけだった。

「…ウッ…ウッ…」

「…キキョウ。
多分彼は大丈夫だ。
というか、彼は本当の意味で君と一つになったのかも知れない。

後は君の気持ち次第だ。

キキョウ…
一度日本に帰ってみないかい?

きっと何かあると私は思うよ…」

「ウッ…はがぜ…」

「まぁ焦ることはないさ。
ゆっくり考えてごらん。
じゃあまた電話するからね。
キキョウ。
いつでも連絡くれていいんだからね。
じゃあ…また」

「はい…」

それだけ言うのが精一杯だった。

父の気持ちを聞きたかったのは本当の私の気持ち…

考えた事も無かった。
考える暇も無かった。

でも…

少し落ち着いて考えてみよう。

博士と彼が気付かせてくれたこの気持ちを。

本当のところの私の気持ちを。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
スポンサーリンク