第160話 《サイトウ》1

私はマリーが好きだった。
もうずっとマリーに囚われている。

いつからだろうか
“マリーの本当の笑顔”を見ることが私の人生の目的になったのは…

私は日系ブラジル移民で幼い頃にこの街に引っ越してきた。

薄暗いアパートに住み、日銭を稼ぐ父と母。

その中で私とマリーは兄妹のように育った。

マリーはいつも同じお気に入りの黄色いワンピースを着ていた。

いつも薄汚れたワンピースを着て二人で外を駆け回っていた。

東洋系のスラム地区にいたマリーは良く虐められていた。

白人達に“イエロー”と揶揄され続けられた大人達の鬱憤が、白人の幼いマリーに事あるごとにぶつけられた。
そしてそれはその子供達にも受け継がれ、日々マリーは何かと目の敵にされていた。

マリーの母親は娼婦だった。
その男性遍歴のツテからここに移り住んでいた。

マリーの母親は、大人達の白人への鬱憤を晴らされるかのように身を粉にして働いていた。

それは虐げられるだけが自分の生きる道だと言わんばかりにいつも誰かに乱暴に抱かれ、まるでこの世の全ての鬱憤を自ら受けいているようで、いつも違う男をアパートに連れ込んでいた。
そして全くマリーに関心の無い母親だった。

そんな環境の中でマリーは育っていった。

そんなマリーを不憫に思った私の母親が、マリーを家族のように扱うようになった。

私はマリーと一緒に成長した。

そんな中でもマリーはいつも笑顔を絶やさず、私達にたくさんの笑いと愛嬌をもたらしてくれた。

私の生活にはいつもマリーが一緒にいた。

マリーが虐められたと聞けば、スラムを出てまで虐めた相手を探しに行き、徹底的に痛めつけた。

その内、スラムに溜められた鬱憤を晴らすように力が力を呼び、仲間が集まった。

10歳になる頃にはこの近辺で、私とマリーに逆らう者は居なくなった。

小さなギャング達は警察に捕まり、少年院に行くことを“出張”と呼び、まるで大人達の真似事をしているかの如く、“出張”が終わればまた仲間に戻る。その度に私はまるで会社の社長のように地位を与え、徐々に組織は強固なものへ変わっていった。

私は捕まる訳には行かなかった。
マリーを守り、常に側にいる為に。
そして日々やることが見出だせず、鬱憤ばかりだった仲間達は、暴力の捌け口に“私とマリーを守る”という大義を被せ、それは地域の警察も見過ごすことの出来ないくらい大きくなっていった。

私は子供だった。

マリーを守ることで自分の自尊心を守っていることに過ぎなかったことが気が付かなかった。

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