第162話 《サイトウ》3

男はあるファミリーに属していた。

“華僑”と呼ばれるそのファミリーは仁義礼智信を重んじていた。

男はそれを欠いた。

私から乗っ取り、組織化した我々を“ファミリー”と呼び、自分の為だけに動かし出した。

当然のように華僑からの“報復”が始まった。

マリーが拐われて監禁されたのだ。

組織の要であるマリーを拐い、牽制を促す。

今まで通り柔順に従うなら良し、従わなければ悪し。

男は従わなかった。
己の力を過信していた。

男は激怒し、マリーが拐われたことを仲間に告げ戦争を仕掛けた。

その間、私は一人でひたすらマリーを探し続けた。

そんな時、ある一人の紳士的な青年が私に近付いてきた。

「マリーの居場所まで連れていく」
青年はそう言うと私を車へ促した。

私はその時に正常な判断が出来なかった。
言われるがまま車へ乗り込んだ。
ただマリーが無事であることを祈りながら。

とある倉庫の一角に連れて行かれると、そこには凌辱の限りを尽くされた無惨なマリーの姿があった。

私は取り巻きの男達を突き飛ばしながらマリーを抱き上げた。

マリーは虚ろな目で私を呼ぶと急に気を失った。

私はゆっくりとマリーを下ろし、私を連れてきた青年に向かって狂犬のように突進し、その男を殴り続けた。

青年は抵抗もせずに殴られ続けた。

しばらくして、私が殴り疲れると、ボロボロになった身体を引き起こしながらその青年は言った。

「取引をしよう」と。

そこで私は事のあらましを知った。

私の組織は大きくなり過ぎたこと
最初の男はファミリーから派遣されてきたこと
次第にファミリーの意見に従わないようになったこと
マリーを牽制に使ったこと
楯突いた男はファミリーで処分するということ
残った組織は私にまとめてもらい、ファミリーに入るということ
拒否することはこれ以上凄惨な目に合わなければならない覚悟が必要だということ。

青年の目は真剣だった。
そしてこれ以上無く組織は調べ尽くされていた。

私はマリーがされたことに怒りを覚えていたが、ボロボロになった青年の顔を見て怒りが急に冷めていった。

この青年はわざとに私に殴られたのだ。

私の怒りを真正面から受け止めたのだ。

「…私にも妹がいる。ただ君の暴力に訴えるやり方ではいつかまた君は同じ目に合うだろう。そうならない為にも今君は我々に学ぶべきだ。
暴力は解決の一つの方法に過ぎないことを」

私はその目の奥に宿る蒼白い炎に似た力に、彼の言葉を信じることにした。

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