第163話 《サイトウ》4

その青年はケンと言った。

「和解成立だな」と言ってその青年は私と固く握手を交わし、すぐにマリーを手厚く保護した。

私は男の手先になっていた仲間を次々に説得して回り、隠すことなく事の顛末を話した。
その結果、皆私に同調してくれた。

ただマリーは違った。

ファミリーが用意してくれた病院に何ヵ月も虚ろに居続けた。

私は毎日マリーの元に通った。

毎日花を届け続けた。

マリーは時折、あの男に会いたいと喚き続けた。
もうこの世にはいないあの男を夜な夜な病院を抜け出し、探し求めるようになった。

ある日私は告げた。
あの男はもういないということを。

マリーは知ってか知らずか「そう」と呟いたきり、口を閉ざすようになった。

私の家族も頻繁にマリーの元へ通った。

ただマリーの母親が来ることは無かった。

初恋を無惨に散らしたマリーと私は生きていく方向性を見失っていた。

私は組織を全てファミリーに預け、必死にマリーの元へ通った。

そしてある時、マリーの母親が居なくなった。
ただ、部屋はそのままにしておいた。

いつかマリーと母親が何気なくそこで会えるように。

しかしマリーの母親はそれっきり帰ってくることは無かった。

一ヶ月程が過ぎ、マリーは病院を退院した。

そしてマリーは変わっていった。

寂しさ故にひたすらに私に身体を求めるようになった。

そして暴力や暴言を吐き、私を責め立てる日々が続いた。

私はマリーが辛い目に会ったが故の一時的な感情だと、そして自分こそがマリーを救うことの出来る唯一の人間だと信じていた。
そして私に暴力や暴言を振るうその姿は、私を頼るが故の行動だと盲信した。

その内マリーは家に近付かなくなっていった。

そして行きずりの男を漁り、一時の快楽と安心感に身を委ねるようになっていった。

私は身を切られる思いを感じながらも、どうやったらマリーが元の笑顔になれるかを探し続けた。

二度の妊娠、堕胎を繰り返し、その内マリーは何もない部屋で一日中虚ろに自らのお腹を撫でる日が続いた。
私はずっとマリーのそばに居た。

それを見かねたケンは、私にある提案をしてきた。
それはマリーを救う為には私は様々な真理を知らなければならないという、華僑の教育だった。

あの時私に殴られるままのケンが与えてくれた気付きを信じ、私は華僑の教育を学んだ。

歴史、思想、行動、帝王学、マナー、生き方、
様々な事を学んだ中で、私は心と身体は表裏一体であることを知り、心理学に興味を持った。

東洋思想と西洋心理学を併せれば、マリーを救えるかも知れない。

そこから私は勉強に身を委ねた。

ファミリーの後ろ立てもあり、私は大検を取り、今の大学へ入学した。

マリーは躁鬱を繰り返し、自らを傷付けながら長い闇に囚われていた。

そして会う度に私を罵倒し、私の身体を貪っていた。

医師免許と臨床心理士の資格を取り、多くの臨床を重ねた先にはいつもマリーの笑顔という目的があった。

新しい薬や、民間療法、認知行動療法など、あらゆる組み合わせを試し、有効だと感じたものは全てマリーに施した。

しかしマリーは変わらなかった。

どんどん躁鬱の幅は酷くなり、マリーは段々壊れていった。

何度も自殺未遂を繰り返すマリーに、私は格子のついた病院へ何度も入院させた。

その内マリーは誰かの子を宿した。

それがラブイズだった。

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