第164話 《サイトウ》5

ラブイズを宿してからはマリーは変わった。

いつもお腹を大切にし、
いつもよりほんの少し穏やかになった気がした。

私は確信した。

ラブイズこそがマリーを救う糧になることを。

私はマリーを手元に置き、大切に大切に十月十日を過ごした。

誰が父親なんかには興味は無かった。

マリーの笑顔だけを探し続けた私は、時折お腹に微笑むマリーを見ているだけで救われていた。

しかし、マリーはラブイズを産むと、子育てには興味が薄かった。
自分もされたネグレストの為か、産まれたばかりのラブイズを疎ましく扱うようになり、夜遊びを繰り返し、その内娼婦になって生活の糧を得ていた。

私はファミリーから援助を仰ぎ、マリーとラブイズの生活を陰ながら見守った。

ラブイズがいることによってマリーは以前よりも安定しているように見えたからだ。

私はマリーの生きる力を信じた。

マリーの生活から私への依存を断つ為に、私は徐々にマリーからフェードアウトしていった。

マリーとラブイズの生活は一般家庭からみる幸せで平穏な日々とはかけ離れていた。

しかし私はマリーの生きる力を信じたかった。

様々な治療の効果を確かめたかった。

時折、マリーはラブイズを罵倒しながらも暴力を振るうことは無かった。

私は以前より体調の良くなったマリーを見て手応えを感じていた。
娼婦といえど、曲がりなりにも仕事をし、一般的とは言えないまでもラブイズを育て上げていた。

ただ、マリーの心はゆっくりと蝕まれていった。
時にマリーの客を装った私の仲間に大学病院まで連れて来させ、部下を用い診察を行っていた。

その内ラブイズに変化が表れた。
その環境からか心理学に興味を示しだした。

私はあくまでも自然に教師や周囲の影響を与え、ラブイズの進路を導いていった。

心理学を学ぶことによりラブイズの心は強くなり、必ずマリーの笑顔を取り戻す力になることを確信していた。

ラブイズが私の大学へ入学したのを機に私はラブイズに近付いた。

私はラブイズを自分の息子のように思い、あくまでも親友としてのスタンスを取り成した。

その頃のマリーは若い頃の美貌は寂れ、娼婦としての仕事も無くしており、アパートに引き隠る日々が続いていた。

そして、徐々に心を無くしていくマリーを私はまた手元に手繰り寄せた。

愛しいマリーの笑顔をまた見るために…

マリーが手元に来てからは、また毎日マリーに会える日々が続いた。

私は心を無くしたマリーの笑顔を取り戻す為に様々な治療をラブイズと施した。

次第に薬の影響か、マリーは発狂することは無くなったが、あらゆる感情を無くしていった。

まるで糸の切れた操り人形のように。

ただ息をして、食事をして、排泄をする。

ただそれだけの日々だった。

そしてキキョウ、君が現れたんだ。

ラブイズと君が結婚した時、マリーは確かに笑った。

確かに笑ったんだ。

私は君達の家族こそがマリーの笑顔に欠かせないものだと感じた。

それで君やアイハのことを興味深く観察することにしたんだ。

ただ私の頭ではあのはちきれんばかりの笑顔で笑うマリーの顔がこびりついて離れなかった。

私はマリーにならなければならなかった。

本当の意味でマリーと一つにならなければならなかった。

そして私はラブイズと共に一つのマシンを作り上げたんだ。

全てはマリーの笑顔の為に…

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