第167話 《アイハ》17

ママからの電話が無い。

たまにメールが来るけどなんか違う。

電話しても忙しかったっていうメールばっかり。

むむむ
なんかおかしい。

なんだか心配だ。

日本に来てから8ヶ月が経った。

こっちは四季がはっきりしていて着るものがたくさん増えた。

たくさんいろんなおしゃれが出来るから楽しいケドね!

パパはあれからブシおじいちゃんに弟子入りして毎日大工として働いてる。

なんだかたまに二人で銭湯に行ったりして楽しそうだ。

時々ブシおじいちゃんに向こうで一緒に暮らそうとか言ってるみたいだけど、ブシおじいちゃんは無視してるみたい。

だけどなんだか嬉しそうに見えるんだよ。

私はこの夏彼ぴが出来ました!
イェイ

留学生懇親会で出会ったジニアスは、なんとあの飛行機で出会ったおばちゃんの息子さんで、やけにサカナクンさんを推してくるなーと話を聞いているうちに思い出して意気投合。

連絡先を交換してから何回か遊んだある日に「君はサカナクンより魅力的だ。付き合って欲しい」という情熱的な告白を受け今に至ります。

いやー彼氏っていいもんですね!

なんだかパパに似ていて頭は固いんだケドいちいち面白いんだよね!

パパに話したら「一度連れて来なさい」と静かに怒ってたケド、連れて来たら二人とも日本びいきなものだからやけに仲良くなっちゃって、今では3人で日本のドラマを見る日々が続いてる。

最初はサカナクンさんが被っているあのハコフグの帽子を被っていたケドそれは二回目のデートで止めさせた。

顔はいいのにサカナクンハットのギャップも最初は腹がよじれる程笑ったのも、それはジョークじゃなく、本気でサカナクンさんをリスペクトしていることに気付いた時にドン引きしたからだ。

彼は悲しそうに大切にハコフグハットをバッグにしまったことを覚えている。ちょっとゴメンて思ったケド恥ずかしいじゃん。

そうそうママのことだ。

最初は私のことを諦めたのかと思ったら、どうやらブシおじいちゃんのことで思うことがあったみたいなのは感じていた。

パパはブシおじいちゃんはまさしく“サムライ”だと言っていた。
そこは“武士”だと何回か話をしたケド、大人の固い頭ではサムライと武士の微妙な違いは理解出来ないみたい。

ただ、ブシおじいちゃんは頑なに『変わらない』ことを信条としていることを感じていると言っていた。

私はブシおじいちゃんは『変わらない』のではなくて『変われない』のだと思っている。

何か、きっとそうとしか生きることが出来ないんじゃないかって感じてる。

ただ、融通の効かない昔気質のブシおじいちゃんには、幼いママを育てることはいささか問題があったんじゃないかなと思う。

自分で自分のことが出来るならいいケド、出来ないうちから何も言わないのは今なら育児放棄だと言われても仕方ないもんね。

きっとママは幼い頃から一人で生きてきたんだと思う。

なんだかそう感じる。

私は向こうでたくさんの自己主張のある人達と暮らしてきたから、ブシおじいちゃんのようにあまり話さない人は珍しかった。日本はあまり自己主張をする人が少ない。
それは北へ行く程顕著に表れると学校で習った。

『文化と風習』

元々日本は大陸から人が戦いを避けて移り住んだ種族だと言われていて、南に狩猟民族、内陸に農耕民族が根付いたと言われている。

自然に神を置きどんなものにも神性を見出だす日本人は、あらゆるものを受け入れてその神性を見出だすことに特化している。それが世界に技術をもたらしていることに起因しているようだ。

狭い島国だからなのか、相互に助け合う精神が根付いており、個というよりも集団に重きを置いて発展してきたとのこと。

集団からはみ出した人達は村八分として端へ追いやり、集団としての力を固持していたようだ。

その話を聞いた時にブシおじいちゃんと重なった。

やたら自分を語らず、じっとただそこを守り続ける。

日本人としての気質もあるのかも知れない。

ただ、やっぱり現代は違うと思う。

ネットがこれだけ浸水している中で、匿名で意見を言える場が増え、日本人にも少しずつ“違うと思う”が言えるようになったんだと思う。

でもママの世界は違う。

頑ななブシおじいちゃんと何もわからない小さなうちから一緒に居たとしたら…

ブシおじいちゃんは毎日お菓子を買ってくれるケド、それが主食のようになっていたら当然身体を壊してしまうと思う。

それはママが小さい頃から教えてくれたことだ。

ピーマンもホントにイヤだったけど、その度にママは食べるものの大切さを教えてくれた。

『食べたものから身体は作られて、心も作られるんだよ』って。

私がご飯を作らない時、ブシおじいちゃんは缶詰めとお酒ばかりで、とても料理をするようには見えない。

そして
ブシおじいちゃんは何も喋らない。
聞いても対して教えてくれない。

私ならまだいいケドこれが幼いママなら…

今ママは何を考えているんだろう…

いつもメールの返事は、『あなたの思うようにやってみなさい』と来るようになった。

『ママは仕事が忙しくなったから』と来るようになった。

でもママはパパと私と暮らしたかったんじゃなかった?

もうどうでも良くなった?

いいや、ママに限ってそんなことは無い。

一旦帰ろ。

んで、ママの様子を見てこよう。

そうだ。
そうしよう。

まずはパパに相談するか。

その日の夜、パパと話をした。

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