第169話 《アイハ》19

う…ん…

なんだかいい匂いがする。
お味噌汁の匂いだ…

あぁ寝ちゃったんか。

時間を見るとまだ4:30だ。

眠い目をこすり起きるとブシおじいちゃんが台所に立っていた。

「…ブシおじいちゃんおはよう…」

「おぅ」

「ごはん作るよ?」

「座ってろ」

「うん…」

トイレに行ってぼんやり居間に行く。

ポヤポヤしていると朝ごはんが並びだした。

あさりのお味噌汁
炊きたてのご飯
焼き鮭
海苔の佃煮
お漬け物

ぷぅんと湯気のたっていい匂いだ…

「これ…ブシおじいちゃんが作ったの?」

「おぅ。アイツ起こしてこい」

「はぁい」

トコトコトコ

「パパー朝ごはんだよー」

クカークカー

「パパー」

クカー

トコトコトコ

「パパ起きない」

「…じゃあ食え」

「はぁい!いっただっきまーす!」

ヒョイ
パクッ
モグモグモグ…

ンマイ!

「美味しいっ!」

「ん…」

ブシおじいちゃんは耳を真っ赤にして新聞を見てる。

勢いよくご飯を頬張ると、横目でブシおじいちゃんはチラリとこちらを見て、ヘンテコな顔でニヤニヤしていた。

「ブシおじいちゃん?」

「オホン!ん…」

「なんで朝ごはん作ってくれたの?」

「ん…」

「“ん”じゃわかんないよ」

「ん…」

ダメだ。
耳真っ赤出し、頭も赤くなってきた。

ブシおじいちゃんコレ怒ってるように見えるんだよなー。照れてるダケなんだケド。

ムム!
鮭が秀逸です!
このふっくらと、そして程よい塩加減…匠(たくみ)ですな…!

やるなぁ。
仕事が丁寧だよね。
愛情こもってる。

あまりに美味しすぎてご飯をおかわりしてしまった。

「あー旨かったァーゲフゥ」

食事が終わるとブシおじいちゃんは私の食器をカチャカチャと片付け始めた。

「あ!私やるよ!」

「休んでろ」

あ…はい。
朝から食べ過ぎたナァ。
おなかいっぱい!

ジャーッと洗い物の食器をブシおじいちゃんが水に浸していく。

トコトコトコ
「ブシおじいちゃんアリガト。とっても美味しかったよ」

「…おぅ」
また赤くなってる。
ふふふ可愛いー。

「行くのか…」

後ろ姿のままブシおじいちゃんが言った。
パパから聞いたのか…

「うん…行ってくる」

「そうか…飯…んまかったか?」

「うん!とっても美味しかったよ!あのあさりがね…」
「アイツにも…食わしてやれば良かったなぁ…」
私の言葉を遮るようにブシおじいちゃんは言った。

「…
…私、ママ連れてくるよ。そしたらまた作ってくれる?」

「…」
ブシおじいちゃんの肩が少し震えていた。

その言葉は小さくて聞こえなかったけど、多分「おう」だと思う。

不器用なブシおじいちゃん。
きっと精一杯の愛情表現だったんだろう。

胸の奥がきゅぅんと締め付けられる。

「ブシおじいちゃんッ!」
後ろからブシおじいちゃんに抱き付く。

「おッ!こら!止めッ!」
初めて見るブシおじいちゃんのうろたえ。
止めない。

「アタシ、ブシおじいちゃん大好きだよ!いつもありがと!
毎日買ってくるお菓子も、頼んだらすぐ連れていってくれたりとか、今日もごはん作ってくれたりとか、たくさんたくさんありがとう!
でもね!一番好きなのははアタシのこといつも好きでいてくれていること!だからアタシもブシおじいちゃん大好き!!」

その時、ブシおじいちゃんの動きがピタッと止まった。

「薫…」

ふと呟いたおばあちゃんの名前。

水道から流れ出るジャーという音だけが、一瞬訪れた静寂な時間に聞こえていた。

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