第173話 《アイハ》23

博士のおじいちゃんからの電話だった。

すぐさま車でパパと博士の研究室へ向かう。

ママ…
どうか…どうか無事でいて…!
ママ…
ママ…!

固く両手を合わせながら祈り続けた。

ふとパパを見ると歯を食い縛りながら、険しそうな、そして悲しそうな顔をして、歯をガチガチと鳴らしていた。

「パパ…」

「だ…大丈夫…大丈夫だ…大丈夫…」

まるで一人言のように呟きながら、猛スピードで車を走らせていた。

パパも…
パパも不安なんだ。
そして多分、自分を責めている。

「パパ…」

「大丈夫…だ大丈夫…大丈夫だ…」

「パパッ!」

キィッ!
急ブレーキで車が止まる。

身体ごと前のめりに持っていかれ、その反動でシートに戻る。

「ななんだい?アイハ…」

こっちを向いたパパは真っ青な顔で冷や汗をかいていた。

「…あそこのコンビニに寄って」

「あ…キキョウ…あ…」

「あそこのコンビニに寄って!」

「あ…トイレなら研究室に…」

「あそこのコンビニ寄って!!」

「あ、ああ…」
ブロロロロ…とコンビニの駐車場に車を停めてもらう。

…鼻から大きく息を吸って…口から細く吐き出す…
…鼻から大きく息を吸って…口から細く吐き出す…

吸って…
吐いて…

吸ってー…
吐いてー…

そうしながらミネラルウォーターを2本買い、車に戻った。

「…はいパパ」

「あ…ああ、じゃあ行くか」

「待って!」

「どうしたんだいアイハ?」

「一回落ち着こうパパ」

「いや…キキョウが…」

「パパ!」

「はい!」

「一回落ち着こう?」

「…うん…
うん…そうだね」

「“慌てた時に落ち着く魔法”…知ってる?」

「“慌てた時に落ち着く魔法”?」

「そう、小さな頃よくママに教えられたの…
はいパパも一緒にやろう」

「う、うんうん」

「まず外に出ようか」

「は、はい」

「大きく息を吸ってー…」
スゥー
「吐いてー…」
ハァー
「また吸ってー…」
スゥー
「吐いてー…」
ハァー
「何回か繰り返したら、楽に息をするの。そしたらハイ、お水飲んで」

ごくごくごく…

「落ち着いた?」

「あ、ああ…まぁ…」

「私ね、癇癪持ちだったからよくママにやらされたんだ。その後“怒りで自己表現してはいけません”って言われてね。
“怒りの裏には不安があって、不安の種から感情が囚われる”
これ、パパの言葉だよね」

「あ…ああそうだ…でも…」

「落ち着こうパパ。私もそうだけど。
私ね、パパがああなったの何回か見たことがある。
私も取り乱してるけど、ママがいつも“心が不安になったらまず落ち着こう”ってさっきのやってくれたの。
でもザワザワは取れないケド、きっと今がその時だと思ったの」

「アイハ…」

「ママがいつも言ってたの。
“自分の思い通りにいかなくても周りのせいにしちゃいけません”って。
ママがいつも言ってたの。
“あなたはあわてん坊だから落ち着く方法を学びなさい”って
ママがいつも言ってたの。
“心が不安だとロクなことが起こらないよ”って。
ママが…」

「…わかった…わかったよ…
ありがとうアイハ。
パパ、もう大丈夫だから…」

「ママが…ママが…」

「アイハ!」
ハッとした。

気が付いたら泣いていた。

身体の震えが止まらなかった。

膝がガクガクして、心はそこに無いようなカンジがして…

ママ…
ママ…

「アイハ!
アイハ!」

パパが私の肩を揺さぶっている…

「パパ…」

「わかった!わかったよ…!」

そしてガッシリとパパに抱き締められた。

あぁ…
パパの匂いだ…

ママ…
私いい子になれたカナァ…
いい子になったらパパが帰って来るんだもんね…

パパが帰ってきたからいい子になれたのカナァ…

ママの言い付け守ってるよ…
ママ…

ママ…

その内身体がガクガク震え出して、私は急に目の前が暗くなっていった。

「…アイハ!アイハ!」
遠くでパパが私を呼ぶ声が聞こえた。
そして目の前が真っ暗になった。

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