第174話 《アイハ》24

「……!」
「……!」

何やら声が聞こえる…

パパとサイトウおじいちゃんの声だ…

あ…私…気を失ったのか…

なんだか頭がぼーっとする…

………!
「ママッ!」
掛けられた毛布を跳ね除けて飛び起きた。

「…起きたか…」

「アイハ…おじいちゃんを許してくれ…」

…許す?

「ママは…!?ママはどこ…!?」

「…ママは…マシンに入ってしまった…」

「パパが入ってたやつ!?出れないの!?」

「まず3ヶ月は無理だ…身体が安定してからじゃないと危険すぎるんだ…」

「ああ…アイハ…アイハ…おじいちゃんが悪かった…おじいちゃんが…」

「サイトウ…話はわかった。とりあえず落ち着いてくれないか?
アイハ…
…ママはとりあえずマシンによって生命は維持される。ただプログラムの無いこの状態は、無限の砂漠を宛てもなく歩くようなものだ。
パパが何とかする。
アイハ…君の力が必要になった。
一緒に…ママを助けよう。
その前に…

…サイトウ…ジニアスをアイハに近付けた理由はなんだ?」

何!?ジニアス!?
ママは…時間が…掛かる…?
ん?ジニアス?

「いや!近付けてなんていない!本当だ!」

「…私はジニアスを注意深く観察していた。
そして先程サイトウの話を聞いて、全てが繋がったんだ。
ジニアスはこの大学から日本へ留学していただろう?
そしてアイハと私と知り合うには都合が良すぎる。
私やキキョウだけではなく、アイハに…
アイハに何をしようとしたんだッ!!」

「誤解だラブイズ!確かにジニアスは古い友人から頼まれた人間だ!ただ君達と出会ったのは全くの偶然なんだ!本当だ!信じてくれッ!」

「…サイトウ…
今までの話を聞く限り、私もキキョウの意見に賛成だよ…

サイトウ…
あなたは私の母に囚われて、私の家族を利用していると私も思う。

ただ…サイトウ…
いや…

…父さん…

父さん…
ずっと思っていた…
サイトウが父親だったならって…

だから父さん…
もう、母さんのことで苦しまないで欲しい…

私は…
ただ家族を大切にしたいんだ…
これから…
これからの家族を…」

「ぉオォおぉォオおおぉオォ…!」

サイトウおじいちゃんが泣き崩れていく。

「パパ…」

「アイハ、今は少し待ってくれ」

そう言いながらパパは私とおじいちゃんの間に身体をずらし、私の視界からおじいちゃんの姿を隠した。

「…父さん…
…もう…充分だよ…
私は感謝しているよ…

あなたが、
母や私や、
キキョウやアイハの為にどれだけ骨を砕いてくれたかを…

…ただそれは、気持ちはわかるんだが、あなたの歪んだ愛情だよ…

私もそうだったから…
あなたの気持ちはほんの少しかも知れないけれど…わかる気がする。

だから…
だから私はあなたを許すよ…

父さん…
私達はもう、家族だ。
切っても切れない因果律に組み込まれている。
だから…
だからこれ以上、アイハやキキョウを傷付けないで欲しい…」

「パパ…」

「うぅ…ラブイズ…

ラブイズ…
君をずっと見ていた…
マリーの笑顔の糧になるならと…

ずっと見ていたんだ…
私はマリーと結婚したかった…

マリーと…
君と…
家族になりたかったんだ…
そして…
そしたら…
マリーが幸せになれるんじゃないかって…

しかし…
マリーはそれを望んでいなかったから…
私ではだめだったんだ…
私では…
私ではマリーを幸せにしてやれなかったから…

だから…
だからラブイズ…

君にマリーを託したかったんだ…
君は…マリーの息子だから…

…私は…どんなに頑張っても…マリーの家族にはなれなかったから…

だから…
もう…
私の役目は終わったと思ったんだ…

私の人生の集大成である、あのマシンで眠りにつきたかったんだ…」

「…うん。わかる…わかるよ…
私もそうだったから…

父さん…
私達はもう家族だよ…
だから、これからも一緒に居よう。

私はこれ以上私の家族が傷付くのは嫌なんだ。
それは私のエゴかも知れない。
けれど嫌なんだよ。

父さん。
キキョウの記憶の中で、どうしてもキキョウの思考の方向性に思えなかったところが多々あったんだ。

それはキキョウの遺伝子に関わっていると思い、キキョウの父親に会ってきた。

だけど、違っていた。
あれは…父さんの思考がプログラムされていたんだ…

相手を必死に守ろうとするエゴイズムは、時として相手を傷付けることを経験したよ。

けれど…
それでも…
いや、それだから…
人はより深い愛情に辿り着けるんだと、今はそう思うんだ…

父さん…
私達はまだやり直せる。
だから力を貸してくれないか?」

「ラブイズ…私を父と呼んでくれるのかい…?」

「ああ…父さん…
いつも本当にありがとう」

「たった一人…
息子だと思っていた君が…父と呼んでくれた…!
たった一人だと思っていた…!
いつも一人だと思っていた…!
こんなに…こんなに嬉しいことはない…!」

むせび泣くおじいちゃんの姿は、何かに囚われていた心が解放されたかのように見えた。

「父さん…
アイハを…アイハを一緒に守ってくれるかい…?」

「もちろんだ…!もちろんだとも…!!」

パパがおじいちゃんの背中に手を置いてゆっくりと撫でていた。

もう一つの手をおじいちゃんは震えながら両手でがっちり握っていた。

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