第175話 《アイハ》25

それから3人で話し合いが始まった。

私達が日本へ発ってから今日までのことをおじいちゃんから聞いた。

マシンの中で眠っているモニター越しに見るママは今何を思っているんだろう…

おじいちゃんの気持ち、わからないでもない。

ただ、やっぱりそれは間違いだと思う。

そんなおじいちゃんをパパは“許す”と言った。

“許す”…

ママがこんなになったのは私のせいだ。

私は私が許せない。

パパは私の力が必要だと言った。

なんだろう…

「…パパ…これから何をすればいいの…?」

「うん、まずはママをこちらの世界に呼び戻さなければならない。
その為には今、思考の無限砂漠にいるキキョウの思考に道筋を立てなければならないと考察する。

だからまず、以前プログラムしたママの記憶をまた辿らせる。

…ただ今のキキョウに耐えられるか…

そこの懸念を打破する為に以前から理論立てていたもう一つのマシンを構築する。

それはお互いの思考をナノマシンの媒介によって通じ、相手の思考に干渉し合えるマシンだ。

これを造る。

なんとしても…
なんとしてもだ。

…おそらくキキョウは負の思考のスパイラルに落ち込んでいるだろう。
それを救うためには…

アイハ、君の記憶が必要だ。
アイハの記憶を持って、私はキキョウの元へ向かう。

君とキキョウ、二人の記憶は何物にも替え難い絆で結ばれている。

パパはそれを信じている。

その前に…
ジニアスの件を払拭したい。
悪いが父さん。私はまだあなたを全て信用している訳ではないんだ。

あまりにも仕組まれた人生を歩んだ私にはとても偶然とは思えない」

「パパ…ジニアスの何がそんなに…私が直接聞いてみようか?」

「いや、彼も操作されているとしたら、彼に何を問い質しても無駄だろう。
彼に指示した人物がいるはずだ。

それが父さん…あなたは知っているはずだ」

「…ラブイズ…私は本当に知らないんだよ…ただ今の話を実現させるなら、どの道相談しなくてはならない人がいる。

…しかしラブイズ…
君の考えはベストとは言えなくとも現時点ではかなり有効な施策であろう…

しかし今回のキキョウにはイレギュラーが多すぎる。

君のように身体作り、システム構築等万全な状態でマシンに入った訳ではないんだ。

私は4ヶ月後、緩やかにキキョウを覚醒させる方が現実的だと進言するよ。
しかし空っぽの思考を4ヶ月続けた後に覚醒を施しても、君と以前考察した通り、植物状態になる確率は高いだろう…

君の考える思考干渉装置も以前に二人で理論構築は済んでいるが、あまりにも現実離れし過ぎている。

そもそもシナプスの電気信号の個人差をどう解消していくかはまだ試作品すら出来ていないんだ。

仮に君の言うシステムを構築するにはキキョウのシナプス信号を解析、再現してから君のシナプス信号にリンクさせなければならない。
そしてその為のコンピューターの構築も一から始めなければならないんだ…
それはまるで一キロ先の針の穴に望遠鏡を用いて遠隔操作で糸を通すより現実的ではないだろう…

…キキョウの気持ちを尊重して、静かに休ませてあげる方がいいかも知れないと…
おこがましくも私は思うんだ…」

「それでも!
それでも出来ることはなんでもやりたいッ!
アイハにも…
私にもキキョウは必要なんだ!
確かにそれはエゴかも知れない!
だけどこのまま、この世界でキキョウの幸せを叶えることが出来ないなんて私には耐えられない!」

「パパ…
それじゃあおじいちゃんと一緒だと私は思うよ…

“私が”じゃなくて“ママが”何を望んでいるのか、今は考えるべきだと思う。

ママは…
ママはきっと寂しかったんだと思う…

パパが居なくなって、
いつも支え合ってきた私も居なくなって…
何の為に生きてきたのかわからなくなっちゃったのかも知れない…

そしてこの状態を今ママが望んだとしたら…
いや…でも…

…私だったら本当は家族と一緒に居たいと思う。
私、日本に行って自分のアイデンティティについてたくさん考えたんだ。
何を持って自分が自分とするのか。

私はハーフだから、どちらの血筋を持ち合わせていて、風土や環境が違うどちらの考え方にも馴染めるケド、それは裏を返せばどちらにも軸を置ける自分の考えが揺らぎやすくともあったんだ。

自分を支える根底の何かを考えた時、やっぱりパパやママの考え方が基本になっている。

それは育ちや環境が密接に関係あるんだと思うんだ。

パパ…
ママの根底には孤独からくる寂しさが混在していると思う。

だから…
えーと…

やっぱり、家族で温かく暮らすことが大事なんだと思うんだ。

なんだかうまく言えないんだケド…

でも…

やっぱり私もワガママだと思うんだケド…

私も家族で一緒に居たい…

パパとママと…
三人で一緒に居たい…

ママ…
ママに…
ママに会いたい…
ママに会いたい…

会いたいよぅ…
パパぁ…

ママに…
ママに会いたいよぅ…」
胸がぎゅうっと締め付けられる。
ぐぅっと拳を胸に押し込んでも、押し潰されそうになる胸の奥の苦しさが息を詰まらせる。

「アイハ…」
パパが私の頭を胸に抱き寄せてくれた…
パパ…
ママに…
ママに会いたいよぅ…

さめざめと涙が止まらない…

「…どちらにしてもまずは4ヶ月の猶予がある。
そして君達に紹介しなくてはならない人物がいる。
私のもう一人の親友だ…
その人に会いに行こう…」

そう言うとおじいちゃんは電話をしに行くと言って部屋を出た。

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