第177話 《アイハ》27

門に辿り着くと、門番の守衛さんがいた。

車の窓を開けておじいちゃんがカードを見せる。その間、もう一人の守衛さんが車のトランクを開けて、私達は身体検査をさせられた。

「…随分頑丈なセキュリティだな…」

「彼は“大老”に数えられる数少ない華僑の長だからね。念には念を入れてというやつさ。
大丈夫。いつものことだ」

「おじいちゃん、ケンおじいちゃんってどんな人なの?」

「うん…そうだなぁ…
ある言葉だけどね、

『木のように伸び行き生育し、森を育て山を育むは慈しみの心と知れ

金属のように清廉とした清らかさを宿し、周りと固く結合し鉱物を養うことは義侠の心と知れ

火のように燃え盛り、発熱し立ち昇りを操るは礼節の心と知れ

水のように全てと交わり拡がり、命の源を潤すは智恵の心と知れ

土のように受能し、全ての養育の源は信ずる心と知れ

己を厳しく律し、立ち震える勇気を内包するもの、それを大老と心得よ』とあるんだ。
まさにそれに相応しい人と思うよ」

「ふぅん。わかりずらいケド、なんとなくスゴい人そうな印象だね。
それでどんな人なの?」

「…まぁ人間の出来た人だよ。私なんかよりずっとね。
そうだな…すごく厳しいかな…己にも…他人にも…
一見して穏やかそうで雄大な印象を受けるけれど、鋭さだけは若い時からずっと変わらない。

まぁそんなに堅くならなくていい。
ありのままのアイハでいればいいよ。

ただ…最初にお茶が出されるだろう…
二人は私の見たままにお茶の作法をしてほしい。
難しい事じゃない。おまじないみたいなものだ。

ラブイズ…宜しく頼むな…」

「…わかった…ただそれはどんな意味があるんだ?」

「我々の本気を示す合図だと思ってくれ。
華僑には秘密のサインが色々あるんだ…
普段は使うことなんか今はないけれどね」

「…それでアイハが何か危険に晒されることがあれば…」

「無い。逆に我々の安全を示す為だ。
どうか信じてほしい」

「…逆に私達を陥れるサインなのかが私にはわからない。
…何の意味があるのかを一応教えほしい…」

「…そうだな…
“黒話(こくわ)”というものなんだ。
出されたお茶は蓋を斜めに被せ、小指をお茶に少し入れる。そしてテーブルに三回三滴別々に付けるんだ。
天と地、そして先祖に対する礼節を表している。
そこで私は話を切り出し始める。

彼等は自然や宇宙を崇拝している自然哲学者達だと思えばいい。

宇宙と共に生き、その一体感を得ることが人生と捉えている。

その規範は道教、仏教、儒教に置き、易経より生じている。

君は東洋の哲学にも明るかったねラブイズ。

彼等はまさに自然と共に生きることを旨としているんだ。

“エゴ”と“利他”は表裏一体であり、彼等独自の理論形態を持っていることを忘れないでいくことだ。

…今更君達に加える危害なんてない。
信じてほしいというのは虫が良すぎるかも知れないがラブイズ、君の目で確かめてほしい。

これからのことを含めてね…」

「…わかった…
どちらにしても最短でキキョウを救う為には必要なことなんだろう?
だが…今は慎重に冷静を重ねていくことにしているんだ。
それはアイハ、君が教えてくれたことだ。
“献身の覚悟”
それを私は忘れないよ」

「“献身の覚悟”?私何かした?」

「いいんだ。また今度話すよ…
着いたな…でかい屋敷だな…」

「まだ出ない方がいい。放し飼いのドーベルマンがすぐに飛んでくる。隣のガレージが空くから、そこに入れるんだ」

「おじいちゃん、“コクワ”ね。わかったよ。なんだか秘密の暗号みたいだね」

「うん…似たようなものだ…じゃあ行こうか」

ガガガガガ…とシャッターが開いて、地下へ向かう駐車場が現れた。

私達はそのままそこへ車で下りて行った。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
スポンサーリンク