第179話 《アイハ》29

「…わからない…」

「フン!“わからない”など答えにならぬ!!
所詮は小娘か」

「うぅん…わからないのはどう言葉にすればいいかなの…

“愛”って…
ただ『好き』だとか『相手に対する思い遣り』だとか、そんなものじゃないと思うの…

なんていうか…心の底から沸き上がるもので…

イメージだけど、あったかくて…優しくて…
そう…“お母さん”みたいなカンジ…

でも…もっと言えば、『人類愛』っていう言葉もあって…

なんていうのかな…
『人間』ってみんな“生かされている”と思うんだ。

“何の為に生きているのか”じゃなくて、周りのもの全てに生かされているんだと思う。

おじいちゃんも、パパもそうだけど、おばあちゃんやママや私だけへの愛じゃなくて、なんというか…

あのさ、『飛行機』あるじゃん、あれさ、私初めて乗った時にスゴい感動したのね。
あれさ、私作れない。
だけど、あれがあるから、たくさんの人が早く目的地に行けるワケでしょう?
それもきっと、あの“飛行機”を作った人の愛だと思うんだ。

誰かが作ったものだけじゃなくて、太陽とか、空気とか、地面とか、
なんか、自分に関わるものすべてがそこに在るだけで私は生かされていて…
うーん…なんて言いたいのかわからなくなってきちゃった…

うーん…」

「…ふぅむ…

宜しい。
おまえはまだ若い。充分な答えだ。

サイトウ、おまえの研究は“正しい思考の方向性が正しい人生を歩む”だったな…」

「はい…」

「ラブイズ、貴様は娘が真実の愛だと暗に仄めかした。
今娘の話を聞いてどう思うか述べよ」

「……

娘に…

…娘に教えられる日が来るなんて思いもしませんでした…

“人は生かされている”
そうだ…その通りだアイハ…

パパは…君からたくさんのことを学ぶよ…」

「おまえ達は自身の器量の狭さを痛感しろ。

“我”は“エゴ”に過ぎぬ。
サイトウ、我々の目指す到達点はどこだ」

「…“天人合一”」

「左様、“天人合一”
つまり宇宙と一体となり、自然に生きるということだ。

自らのエゴに下ったおまえ達は真実を見誤っておる。しかし、見誤っているから故に、それに気付き、それを変えていくことが出来るのも真実だ。

ラブイズ、わしはおまえの全てを知っておる。
それはサイトウとの盟約による。

サイトウはわしに言った。
“真実の愛の元にマリーを幸せにし、それを持って世界を幸せにする”とな…

その言葉通りサイトウは自らの力で様々なものと関わり、世界を幸せに導くべく命を燃やし続けた。

しかし、わしはそれがサイトウのエゴであると気付いておった。

だが陰陽思想の元、プラスはマイナスから生まれることを知っていた。

それ故その使命はサイトウに任せ続けた。

サイトウの思考の方向性はラブイズに引き継がれ、そして今アイハに拓かれた。

アイハ…
今の気持ちを忘れずにいられるか…?」

「う、うん…私は変わらないと思うよ」

「そうか…
ならば命じよう!

ラブイズ!
貴様はサイトウの後を継ぎ、ファミリーの為に命を使え!

サイトウ!
おまえの全ての知識をラブイズに引き継がせよ!

アイハ!
おまえはわしの家族になれ!」

「は?」
孔明の家族?

「ジニアスと婚姻しろ!んでわしと住め!」

「ケン大老!アイハはまだ子供です!まだまだ嫁ぐには早すぎます!まだ家族で暮らしてないんです!待って、待ってください!」

「…いいよ」

「アイハ!君はまだ17歳なんだ!ちょっと!ちょっと落ち着こう!」

「…ねぇケンおじいちゃん」

「なんだ?」

「私、ジニアスと結婚したらお金出してくれるの?」

「まぁ…そういうことになろうな」

「じゃあ私もお願いがあるの。私もパパの研究に入れて」

「な!アイハ!進路は相談して決めようってあんなに話したじゃないかッ!て結婚?!するのかッ!ちょっ!ちょっ!」

「黙れラブイズ。
アイハ、おまえは何故研究に携わりたいのだ」

「おじいちゃんとパパの方向性を知りたい。
あと私はママから生まれたから」

「ジニアスとの婚姻は受けるのか?」

「まだわからないよ。ジニアスに聞いてみないと。ただまぁ嫌いじゃないし」

「いや!待ちなさい!そういうことはよく話し合ってだな…」

「ラブイズ…師兄が決めたことは絶対なんだ…すまない…こんなことになって…」

「ちょ!父さんまでそんな!待て待て待て待て待て待て待て待て!!」

「ほぅ…ラブイズ、貴様この男を父と認めるのか?」

「え…?いや…はい…まぁ…いや、そういうことじゃなくてですね!」

「ならばめでたいではないか!
我が親友サイトウとその息子ラブイズの娘が、我が愚孫と一緒になる!

我々は真の血族となるのだ!

これは愉快だッ!
ガッハッハッハッ!」

「いやー!だからもー!」
パパがワシャワシャと頭を掻きむしっている。

いや、私もわかるよ。

だけどそう言わないと収まらない流れじゃん?

私の結婚はさておき、まずはママを救わなくちゃいけないんだから。

パパは頭を抱えて苦悩している。

おじいちゃんは黙って諦めてる様子。

孔明はガハガハ笑ってる。

カオスだ。

そうか、ケンおじいちゃんと関わるってこういうことなんだな。

うん、覚えておこう。

「…パパ?」

「…ア゛イ゛バァ…よ゛め゛に゛い゛っぢゃう゛の゛がい゛…」

号泣。

いやいやいやいや。
ちょっと落ち着こう。

そそそそ…とパパの近くに移動して、背中を撫でながらそっと耳打ちをする。

「パパ…演技だよ演技!」

「…えん…ぎ…?」

「そう!
そうでも言わないと場が収まらないじゃん。結婚とかそういうのはとりあえず後でなんとでもなるから、今はまずママを救うことからはじめよう?」

「…そうか…演技か…そうか…なるほどな…」
ぐしっ!

鼻を一つ啜るとパパはスッと立ち上がり、孔明の方を向いた。

「わかりました!その話お受けしましょう!」

ダメー!パパ受けちゃダメー!
こっちからの返事はあやふやにしないと断りずらくなるじゃーん!

パパは古くさいウィンクをして「演技だよ」と言わんばかりのドヤ顔をしている…

パパに交渉は向かない。
心得とこう…

なんで気に入られたのかわからないケド、とりあえずはママの為の研究費とパパの疑問は払拭できたみたいだ。

私は…
これからおじいちゃんとパパの研究を引き継ごう。

家族でもう一度暮らす為に。

うん。
がんばろう。

…なんやかんやでその場は宴会のようになり、パパはへべれけのように酔わされていた。

私はオレンジジュースをちびちびいきながら、漠然とこれからのことを考えていた…

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