第184話 《アイハ》34

「パパ…ブシおじいちゃんにはなんて言おう?」

「ああ…連絡…しなきゃな。パパが電話するよ。アイハ電話あるかい?」

「いや…家に置いてきちゃった。ごめんなさい」

「いや、いいんだ。じゃあ帰ってからにしよう」

「うん…」

その時ガチャリとドアが開く音がして、おじいちゃんと知らない女の人がが入ってきた。

「おぉ…来てたか…中にはすんなり入れたかい?」

「父さんが言ってくれたんだろう?スムーズに入れたよ。ありがとう。テムズ…君がキキョウのオペをしたのかい?」

「ラブイズ主任…!申し訳ありません!私の…私の責任です…!」

「いや…君を責めたりはしないよ…全ては私の責任だ」

「パパ…この人は…?」

「あぁ…父さんの第2助手のテムズさんだよ…

テムズ、娘のアイハだ。宜しく頼む」

「アイハです。宜しくお願いします」

「あなたがアイハちゃん…私…キキョウさんに…」

「まぁ…話は私が聞いたから、今はとりあえずキキョウの維持に力を注ごう」
そうおじいちゃんは言って作業に取り掛かった。

「父さん…ちょっといいかな?」

「うん…?」

そう言うと、パパとおじいちゃんは部屋の外に出ていった。

私はなんとなく気まずい空気を感じながら、さっき聞いた計器の内容とメモを見比べたりしていた。

「あの…」

先に話し掛けてきたのはテムズさんの方だった。

「はい?」

「…私を…恨んでいないですか…?」

「えッ!?いや…私は何も知らないですし…」

「あ…!いや…!ごめんなさい!余計なことを言って…」

「いえいえ、パパもああ言ってますし、テムズさんもママに頼まれてのことでしょう?
…私はよくわからないですケド、仕方ないんだと思いますよ?」

「アイハちゃん…」

そう言うとテムズさんは両手を口に当てて、目にはみるみる涙が溜まり、溢れ出した。

「ぅ…ぅ…ごめんなさい…
ごめんなさい…」

「え…?いや…大丈夫ですよ…」

泣きたいのはこっちなんだケドな…

なんなんだろうなこの人…

「ぅ…キキョウ…さんが…アイハ…ちゃんの…こと…たく…さん…話してた…から…ぅぅ…」

「ママが…?」

「はい…」

…下を向いてぼろぼろ涙を流すこの人はなんで泣いているんだろう?

謝るくらいなら断ればいいのに…

…苦手な人。

ママから私の何を聞いたのだろう?

私はいたたまれなくなって、その場を離れた。

ドアを開けると、おじいちゃんとパパが難しい顔をして立ち話をしていた。

何かしら宜しくない出来事なのだろうか。

私は「トイレ」と素っ気なく二人に伝え、研究室から外に出た。

8月の夕暮れ空は赤く高く、空気はムワッと蒸していた。

研究室の乾燥した空気から急に外に出ると、目に見えない空気の膜に捕らわれているカンジがして、私を余計に苛立たせた。

私、あの人、キライだ。

家族でも無いくせに、ズカズカ人の心に踏み込んできて、私のことが可哀想だと見下して泣いている。

あの人にママの何がわかる!

あの人に私の何がわかる!

そこに目についた小石を思いっきり蹴飛ばすと少しスッキリするかと思ったら、思いのほか硬く、足の指がジンジンと痛くなって、余計にイライラした。

私は誰にも会いたくなくなって、痛む足指を庇いながら歩いて帰ることにした。

夕暮れの中、とぼとぼと歩いているとお腹がぐぅとなった。

その時に始めて朝から何も食べてないことに気付いた。

それがなんだかわからないケド、すごい悔しくなって、なんでこんな時にお腹が減るんだろう。
なんでこんな時でもお腹が減るんだろう。って泣きながら歩いた。

泣きながら、ずっと一人で歩いて帰った。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
スポンサーリンク