第185話 《アイハ》35

とぼとぼ歩いていると、道すがら小さい頃にいつも行った公園があった。

あぁ、ここで良く縄跳びしてたナァ…

初めてママに×飛びを見せてもらったのもここだったっけ…

それからしばらく公園で佇んでいた。

辺りはすっかり暗くなり、街灯の下で私はただ座っていた。

「ヘイヘーイ!お嬢ちゃんお名前なんて言うのー?」

…ナンパだ。
しかも柄の悪いカンジの二人だ…

メンドクサイ。
無視発動。

「あるぇー?無視くれちゃってんの?」
「ねぇねぇ、お名前なんて言うのカナァ?」

近い!
腰を屈めて顔を近付けてくる!
恐い…!

「いや…もう帰るんで…」
と立ち上がると、
「いや、ちょっと待ってよ」
と腕を掴まれた。

「あの…ちょっと…止めてください…」

振りほどこうとしても離してくれない。

「いや、なま…」
「キィヤァ――――ッ!!」

その時
「…ィハちゃーんッ!!」
と向こうから誰かが走ってきた!

テムズ…さん…?

「…ァ…ハちゃーん!避けてーッ!」
テムズさんはそう叫んでものすごい勢いで走ってくる!

「あ!いや!」と男が言った途端、

ドガンッ!

と凄い衝撃で腕が引き離され、私の腕を掴んだ男が吹っ飛んだ。

多分、飛び蹴り。

私は呆然としていると、もう一人の男がナイフを出した!

「イィヤァ――――ッ!」

その場に屈んでギュッと目をつぶると、ナイフを出した男が「近付くんじゃねぇ…」とか言っている。

テムズさんと思われる足音が、ザッ、ザッ、と機械のように近付いてくる。

「脅しじゃねぇぞ…正当防衛だ…」

ナイフの男は自分にそう言い聞かせるように言った。

テムズさんは黙って近付いてくる。

ザッ、ザッ、ザッ、

「舐めんなコラァッ!」
その瞬間、
顔を上げると、左手でナイフの刃を素手で払い、男が体勢を崩したところの肩に握りこぶしを打ち込むテムズさんがいた。

「肩甲骨を強打しました。しばらく痺れて立てないはずです。警察へ連行します」

男達は二人とも「うぅ…」と唸り声を出してうずくまっている。

「…博士、アイハちゃん、確保しました」

手を電話の形にして、話してる?

「テ…テムズさん…」

だめ、足が震えて立てない。

テムズさんはこっちを振り向くと、
「アイハちゃあぁんッ!」
と泣き出しながら駆け寄ってきた。

「デム゛ズざぁん!」
私も安心して泣き出した。

二人とも抱き締めながら泣き続けていると、遠くから「アイハーッ!」とパパの声が聞こえてきた。

「ババあ゛ーっ!!」

パパは私を見付けるなり猛ダッシュで近付いてきて、激突しながら抱き締めてきた。

「アイハァ!アイハァ!無事で、無事で良かったぁ!アイハァ!バカァ!アイハァ!」

「ババあ゛ごめ゛んな゛ざい゛…」

後ろからおじいちゃんがふぅふぅ言いながら走ってくる。

「ご苦労テムズ…あ!この人達やっちゃったのか!?」

「…あぁ!博士…!アイハちゃんが暴力を振るわれていたから…!ごめんなさい!ごめんなさい!」

「…いや、この人達もアイハ探してくれてたんだよ…私の知人だ…」

「あぁ…博士…!ごめんなさい…!私…何も知らずに…!」

「あ…いや…まぁ、誤解もあったかも知れないし、手加減はしたんだろう?とりあえずアイハは見つかったところだし、この人達を手当てに連れていくよ…あ…おまえも手の皮が剥けているじゃないか。
じゃあ一緒に手当てしよう」

博士はそう言うと、ガラの悪い男の人達に「大丈夫かい?」とか「ごめんな…」とか言いながら立たせてあげていた。

「うぅ…サイトウさん…あの女…何なんですか…?」

「あぁ、私の助手兼ボディガードなんだ…痛くないかい…?」

「いきなり飛び蹴りッスよ!うぅ…」

「でもおまえ達もアイハになんかしたんだろう?テムズはいきなり暴力は奮わないからね」

「いや、名前聞いただけッスよ!おい!ジロー!なぁッ!」

「肩…肩が痛ぇ…」
小太りのジローと呼ばれた男の人が肩を押さえてちょっと泣いていた。

「そこに転がってるナイフ、おまえのだろう?

…全く…どうせおまえのことだから、いつも通りナイフで脅かしたんだろう…きちんと心を鍛えていれば、こんなものに頼らんでも良いといつも言っているだろうが…さぁ手当てしてやるから行こう…

でも、おまえ達も済まんかったな…」

「サイトウさん…すみません…」

どうやらおじいちゃんの知り合いのようだ。

こんなガラの悪い人達が知り合いなんて、ちょっとびっくりした。

「…タロー…おまえアイハに何かしたのか…」

パパ!マジギレしてる…!

「いや…ラブイズさん!ちょっと名前聞いただけですって!マジで!なぁッ!」

「…ジロー…そのナイフなんだ…?」

「いや!あの!ラブイズさんすみません!」

…パパに謝ってる…

パパ昔悪かったのかなぁ…

あ!テムズさん手の皮ベロンてなってる!!

「テムズさんッ!手ェ!」

「アイハちゃん…ごめんね…ごめんね…」

「あぁ、アイハ、テムズさんは義手だから大丈夫だよ。テムズ、アイハをありがとう」

「…パパ?義手って…?」

「…まぁ家で話すよ。とりあえずは家に帰ろう」

そうパパが言うとその場は収まり、おじいちゃんはテムズさんとガラの悪い男達を連れて研究室に帰っていった。

「…パパ…ごめんなさい…」

「ううん…いいんだよアイハ…パパこそごめんよ…」

———————–
家までの帰り道、パパに聞いた。

「…テムズさん義手って…」

「あぁ、彼女は両手両足欠損で生まれたんだ。おじいちゃんのナノマシンの開発で、普通の手足のように使えるようになったんだけどね。

今、うちの病院の手術のほとんどは彼女が担当しているんだよ。
機械の手は精密でブレが起こらないからね。

彼女のお陰でうちの大学は手術の人的ミスが飛躍的に無くなったんだ。

…ただ…彼女も不幸な生い立ちでね…

情緒不安定に見えるのは、ああやって悲しみで自分を支えているんだ…

誤解しないでもらいたいのが、決して悪意がある訳ではないんだよ。

そう、しばらくは彼女がアイハの先生だからね。よく言うことを聞くんだよ」

「え!?」
なになに!?
両手両足欠損!?
先生!?

…生まれた時から…?

…そうかぁ…

テムズさんも苦労したんだ…

「ほら…家に着いたよ。今日はゆっくり休もう」

家に着いてから、簡単にデリバリーのピザを取って、早々とベッドに潜り込んだ。

…私の部屋だけは綺麗なままで、変わっていない…

ママ…

久しぶりの自分のベッドは身体にしっくり馴染むのか、早々と私は深い眠りについた。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
スポンサーリンク