第191話 《アイハ》41

次の日、ブシおじいちゃんとなぜかジニアスもやって来て空港までお見送りをした。

ずっと押し黙ったままだったブシおじいちゃんは、飛行機に乗る前にジニアスに

「世話になった」

と軽く礼をし、私には

「あいつを頼む」

と一言言った。

「うん、また電話するね」

ブシおじいちゃんは寂しそうにまたヘンテコな笑顔を見せながら「おぅ」と言って帰って行った。

ジニアスはひたすら恐縮してた。

帰り道、ジニアスと手を繋いで歩いた。

ジニアスの左手の親指には絆創膏が巻かれていた。

そして研究室に二人で寄った。

ママの顔を見る。

いつもと変わらない少し痩けた顔。

その間、ジニアスはパパとおじいちゃんとテムズさんに挨拶をしていた。

おじいちゃんとテムズさんは温かく受け入れていたが、パパだけは「学生気分なら除籍するからな」と威厳を出していた。

パパ、寝癖満開でそれは説得力に欠けるよ…

ジニアスはそのままテムズさんの助手について手伝いを始めた。

私は機械の取り扱いの復習を始めると、おじいちゃんがどこかに行くようだった。

「おじいちゃん、どこに行くの?私行こうか?」

「あぁ…ありがとうアイハ。ちょっとマリーの様子を見にね」

「あ!おばあちゃん!」

しばらくママに付きっきりですっかり忘れていた。

前は月に一度はおばあちゃんに会いに行っていたのに…

でも…
それでも月に一回だけだった…

家族なのに…
おばあちゃんも家族なのに…

「私も行っていい?」

「もちろんだともアイハ。ラブイズ、行ってくるね」

「あぁ、アイハ、母さんにも宜しく伝えといてくれ」

「あ…うん。わかったよ」

行きの途中、おじいちゃんが話し掛けてきた。

「…ラブイズもね、最近一緒に行くんだ」

「パパも?」

「そう、前は見向きもしなかったのにね。日本に行ってから…いや、マシンに入ってから変わったのかな?」

パパはおばあちゃんを毛嫌いしていたのは知っていた。

何かとママと私をおばあちゃんから遠ざけていた。

パパが“マシン”に入ってからはパパの様子を見てから、月に一回おばあちゃんに会いに行くのが習慣になっていた。

おばあちゃんはいつも同じ方向をぼんやりと見ていた。

私はひとしきり最近あった出来事を話してから帰るという感じだった。

小さな頃はおばあちゃんが不思議だった。

おばあちゃんになるとああなるのかと思っていた。

でも違った。

おばあちゃんにはおばあちゃんの人生があって、精一杯生きてあそこにたどり着いたんだ…

おばあちゃん…

施設へ着くと、おばあちゃんはいつもの席でいつも通り外を眺めていた。

「やぁマリー。ご機嫌はどうかな?今日はアイハも来てくれたよ。さぁアイハ、久しぶりだね」

「…おばあちゃん。元気だった?ゴメンね、しばらく振りで…」

じっと外を見詰めるおばあちゃんの後ろから、おじいちゃんが車椅子を掴むと言った。

「さぁマリー、今日は天気がいいから散歩してこようか」

そうして3人でお散歩をした。

心なしかおじいちゃんはいつもより嬉しそうだった。

理由を聞くと
「今日はマリーも嬉しそうなんだ」
と言った。

私にはおばあちゃんはいつもと変わらないように見えたケド、きっといつも一緒に居たおじいちゃんはわかるんだなぁ。

60年以上、一緒に居たんだ…

他の男の人との子供が出来た時、おじいちゃんはどう思っていたんだろう。

昨日ジニアスが言った。
『例えば君が他の誰かを好きになっても、僕は君を守る』

私はそんな愛を彼に対して持てるだろうか?

ジニアスが他の誰かと…

ブンブンと頭を振り払い考えを無くす。

私には考えられない。

それほどの“愛”

おじいちゃんはおばあちゃんにそれほどの“愛”があったんだろうと思う。

それが生き甲斐になるほどに。

例えそれが歪んだ愛に変わったとしても…おじいちゃんの思う“真実の愛”を探し求めた結果なんだ。

それはきっと、私には想像もつかない、心の深い、深いところに在るのかも知れない。

私は
私は…

「ん?どうしたんだいアイハ?」

「あ…ううん何でもない」

庭を一周して施設に戻るとおばあちゃんをいつもの場所へ連れていく。

「じゃあおばあちゃん、また来るね!」

おばあちゃんの手を握ると、気のせいかおばあちゃんからグッと手を握り返してきた気がした。

「…おじいちゃん…」

「ん?なんだい?」

「私…介護士になる」

「うん?うん…そうか…いいと思うよ…

アイハ…ありがとう…」

おばあちゃんの面倒を私が看よう。

そうすればパパもおじいちゃんも安心して研究が出来る。

それよりも、おばあちゃんだって家族なんだ。

私が一緒に居たい。

家族で、
みんな家族で、いつか一緒に暮らすんだ。

そう決めたら、心がすぅっと晴れ渡っていった。

私は家族と共に生きる道をそうやって選んだ。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
スポンサーリンク