第192話 《アイハ》42

その日の夜、ご飯の時にパパとお話しした。

「ねぇパパ?」

「なんだいアイハ?おッ!この煮付け最高だな!」
モグモグ

「うんありがとう。あのね、話してもいい?」

「うんいいよ」

「あのね、これからのことなんだけど…」

「ッ!
結婚はまだ早いぞ!」
ゴハンツブブハー

「違うよ!ご飯粒撒き散らさないで!私、介護士になろうと思うのッ!」

「介護士…?」

「私ずっと、私がしたいこと、私が出来ることってなんだろうって考えてたの。

今日おばあちゃんに会って思ったんだ。おばあちゃんだって家族なんだって。

私、家族みんなで幸せに暮らしたい。

それでね、ママも起きた時に身体動かないかも知れないし、何より今ここにいる家族のお世話が出来たらいいと思ったんだ。

ケンおじいちゃんの言うことは良くわからないし、ジニアスのことはパパが言った通りまだまだ早いっていうか、今は考えられない。

現実的に今、私が出来ることってそういうことだと思ったの。

パパ…

パパはどう思うかな?」

「うー…ん」
くわえ箸で宙を見ているパパ。

「パパ、“くわえ箸”は、はしたないよ」

「あぁ…ごめん。

アイハ、
アイハはそれでいいのかい?」

「うん?うん、いいと思うよ」

「そうか…いや、パパね、最低限ママのことは知ってもらいたかったから、今マシンの取り扱い方を覚えてもらっていたけれども、アイハが本当にやりたいことを優先していいんだからね。

なんとなく周りを優先して、本当にアイハがやりたいことが出来なくなっちゃってるんじゃないかという気がしてね。

その辺はどうなんだい?」

「あ…うん。そうだねぇ…

…正直、“自分のやりたいこと”ってまだわかんないんだよね。
将来なんて真剣に考えたこと自体が初めてだったから。

だけど、考えて考えて、それでたどり着いた答えだから、今はそれ以外は思い付かないカナ…」

「そうか…わかったよアイハ。君の思う通りにしたらいい。

だけど、途中で他にやりたいことが見付かったら、それはそれでいいんだからね。

パパはいつでもアイハの人生を応援しているから」

「うん、パパありがとう。

それでね、ケンおじいちゃんにもお話に行こうと思うんだけどいいかな」

「そうか…よしわかった。パパも一緒に行こう」

「いや、パパはママのところに居て。私、きちんと一人で行って話してきたいの」

「…そうか…わかった。じゃあ粗相のないようにね」

「“くわえ箸”はしないよ」

「ぐ…!うん…そうだね…」

「しょんぼりしないの。

…パパ、私のこといつも真剣に考えてくれてありがとう」

「うん、こちらこそいつもありがとう。

じゃあそれでいこうか。

…アイハ
…ママのことも少し話してもいいかな?」

「うん、ママ何かあったの?」

「いや、これからのことなんだ…

キキョウがマシンに入って2週間が経とうとしている。

本当はまず、4ヶ月は身体の安定に必要な期間なんだけど、キキョウは身体を鍛えずに最低限のプログラムのみで入ってしまったから、細かい設定が必要な状態でね。

本来は設定を行ってから入るのが逆になっていているから、現状を見ながらプログラムしている状態なんだよ。

それが安定し次第、次はパパがマシンに入った記録の追体験をプログラムしていく。

これはパパの記録から、実時間に準じてプログラムした記憶が追体験されているのがわかったからなんだけれども、ここにママを乗せることが出来れば、とりあえず7年は記憶の迷子になることはないはずなんだ。

…ただ、キキョウにとっては辛い記憶をもう一度体験することになる。

それに今のキキョウが耐えられるかに一つの懸念があるんだ…

だから、平行してもう一台マシンを作る。

理論上では人工知能を媒介にして、ナノマシンからの信号を二人が共有出来るはずなんだ。

それを用い、パパがキキョウを連れ戻す。

それにはアイハ、パパがマシンに入る前に3人で行ったあの日の記憶が必要になる。

だからアイハ、あの時に壊れた時計…まだ持っているかい?」

「あるよ。私の宝物だもん」

「うん、それをしばらく貸して欲しい。それと、出来るだけ詳細にあの日の記憶をノートに書き出して欲しいんだ。

ただ、記憶の途中で別の記憶を挟んだ場合、何がイレギュラーを起こすか想像が付かない。だから7年後にパパとの記憶が途切れた時が、キキョウの記憶に会いに行くチャンスなんだ」

「…時計とノートはわかった。

ケド、私は…私は会いにいけないの…?」

「…うん…
マシンはもう一台がおそらく限界だと思う…パーツ毎に予備をもちろん作るけれども、一つ一つのパーツを細かく微調整して一つのマシンを作り上げないとうまく作動しないんだ…

だからこれはパパに行かせてくれないか?」

「…うん、わかった。そうか…その方がいいかもね…」

「ありがとう。ただこれは、現時点での計画だから、これからもっといい案が生まれるかも知れない。
技術は日進月歩だからね」

「うん、わかったよパパ。話してくれてありがとう」

「その都度話をするよ。アイハもパパに相談してくれてありがとう」

「うん、じゃあお互いにがんばろーね!

パパ…
パパは大丈夫?辛くない?」

「あぁ、パパも辛いさ。だけどアイハが居てくれるからね。本当に辛いのはママの方だ…

…いや…

そうじゃないか…本当はこの間アイハに気付かされたんだ」

「私に?」

「そう。
アイハ、ケンおじいちゃんのところで言っていただろう?
“私達は生かされている”って。
あれね、今はパパも心からそう思う。

あれからパパもアイハの言葉をよく考えたんだ。
誰が辛い、自分が辛いじゃなくて、それは全て自分のエゴから思う感情なんだって。

本当は、人間は生きているだけで周りから生かされている。

たくさんの先人達の愛に囲まれて生かされている。

確かに自分が“辛い”とか“悲しい”という感情はあるし、それは消えない。

“自分のせいで”とか“なんで自分ばかり”とも思う。

だけど、それも含めて“生命”なんだと今は思うんだ。

だからこの命を、どう使うかだと思うんだよ。

それは“生かしてくれた”周りの為に使うものだと今は思う。

自分は周りに生かされているんだから、それをお返ししないと。

パパね、思うんだ。

赤ちゃんの時は、何も出来なくて、全部人に助けてもらって生かされているだろう?

服を着ることだって
身体を洗うことだって
トイレだって一人で出来ない。

だけど大人になるにつれて、色々なことが出来るようになる。

それは、今までしてくれた人達に恩返しをする為に出来るようになるんじゃないかって。

だから、身近な人から、自分の出来ることを返していけば、そうすれば、みんな幸せになるんじゃないかと思ったんだよ。

“辛さ”は確かに辛い。
けれども、それを“自分ばかりが辛い”から“幸せ”に転化していけば…
人の為に生きることが出来れば、みんなが幸せになるんじゃないかと思うんだ。

ほら、日本語だと、“辛い”に一を足すと“幸せ”になるだろう?

辛さを自分ばかりがと感じると辛いままで、一を足して、周りの為に生きることが出来れば、幸せになるんだよきっと。

だからパパはもうきっと大丈夫だよ」

相変わらずパパの話は難解だ。

だけど、なんとなく言いたいことはわかった。

「うん…そうだね!
だけどパパも辛くなったらいつでもアイハに相談してね」

「その時は宜しくお願い致しまする」
パパが仰々しく頭を下げる。

「うむ、では風呂に入るがよい。熱々を沸かしておる」

「ははッ!有り難き幸せッ!」

武将ごっこ。

日本にいた時に見た時代劇からジニアスとパパと3人で流行った遊び。

そうやってパパをお風呂へいざなうと、私は早速ジニアスにSNSでメッセージを送った。

『近々ケンおじいちゃんに挨拶したいんだけど、忙しいよね。時間は合わせさせてもらうからいつが空いているかな?』

『ちょっと待ってて』
すぐにジニアスから返信が来た。
そして、
『明日のいつでもいいって、てか今でもいいって言ってたけど断ったよ。でもすぐが良かった?』

早ッ!
…実は暇なのか…?

『いえ、明日でいいです。ありがとう。何時くらいがいいかな?』

返信早ッ!

『じゃあ午前中はどうかな?僕が迎えに行くよ』

『いや、自分で行きます。じゃあ明日の11時にはおじゃまします。宜しくお伝えください』

『そうかい?ていうかそんなにかしこまらなくていいよ。明日はみんないるからお昼一緒に食べようか。じゃあ明日楽しみに待っているね!』

おー。
明日はみんないるのか…

了解。

トコトコトコ
ガチャ

「パパーちょっと出掛けてくるわー」
お風呂場のパパに話し掛ける。

「こんな時間にジニアスかーッ!?」
ガシガシガシガシ

「ちがーう。お菓子買ってくるのー」

「あーわかったー」
ジャバー

頭洗って流してるな…

そそくさと近所のケーキ屋さんでマドレーヌのセットを購入した。

あー明日はジニアスママもいるんですね。

んん!

よし!

気合いを入れてマドレーヌの箱に力を込めたら少し潰れた。

明日、がんばろう!

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