第197話 《アイハ》47話

翌朝、カーテンを開けるともうすっかりと日は昇っていて、時間を見ると9:00を過ぎていた。

机の上に置いたジニアスからもらった指輪を眺める。

昨日も寝る前にニヤニヤ眺めていた。

小さなピンクダイヤが付いているプラチナのリング。

はめてみるとぴったり左手の薬指に収まるサイズだ。

付けてみて、ニヤニヤしたり、ゴロゴロしたり、まったりと堪能をした。

一通り儀式を済ませリビングに行くと、ジニアスが泊まりに来た時の為に買ったソファベッドになぜかパパが寝ていて、ジニアスは隣のリクライニングチェアで小さくなって寝ていた。

「ぐおおおお!ぐぱあああああ!」

パパがお酒を飲んだ時のイビキをかいている。

テーブルには飲み掛けのブランデーグラスが二つ置いてあった。

ジニアス…付き合わされたんだな…

すぴーすぴーと鼻息を立てて眠るジニアスがなんだか可愛い。

二人を起こさないようにそぉっと部屋に戻り、着替えて買い物に繰り出した。

近くのファストフードでお持ち帰りのサンドイッチとコーヒーを買い、家に戻るとジニアスがイスに座ってボーっとしていた。

パパは変わらず「すぴぴぴぶにゃあー」と奇跡のイビキをかいて寝ている。

「ジニアス、私の部屋にいこ」

「んあ?」

そうやってぽやほやしているジニアスを部屋に呼んで、二人でブランチをすることにした。

部屋に行く途中、ジニアスはトイレに行き、冷蔵庫からペットボトルのお水を出してゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクといつ息をしてるのかと心配になるくらい飲んでいる。

私の部屋に行くと、ジニアスはむさぼるように二つのサンドイッチをたいらげた。

そしてお腹がいっぱいになって眠くなったのか、またうつらうつらしだしている。

「ジニアス、少し私のベッドで休みなよ」

「…いや…見たい映画…見に行こう…」

「いや、ちょっと休んだ方がすっきりするよ。いいから少し寝てからにしよう?」

「…うん」

寝癖全快でスウェット姿のジニアスが私のベッドに潜り込むと2秒と待たずに寝息をたて始めた。

鼻が詰まっているのか、スピスピースピスピーと奏でている。

ジニアス…いつも夜遅くまでパパに付き合ってくれて…疲れているんだな…

私はそのままずっとジニアスの寝顔を見詰めていた。

ママがマシンに入ってから、ジニアスはパパの研究室に入った。

今は大学院に進み、修士過程を取得しつつあった。

初めてあった時は、なかなかエキセントリックで気弱な印象だったけれども、今はパパの右腕として実力申し分なく働いている。

…もう付き合って4年になるんだ…

こっそりジニアスにキスをする。

ジニアスは「うぅん」と向こうを向いてしまった。

ジニアスとのファーストキスは付き合ってすぐだった。

私がキスってどんな感じなのか、興味本位でしてみたかったからだ。

すごいドキドキして、心臓がはち切れんばかりだったのを覚えている。

それからジニアスは手は繋いでくれたけれども、キスはしてくれなくなった。

後で聞いた話だと、付き合いたての頃はケンおじいちゃんの言い付けもあって、半分は私とパパに近付く為に付き合ったことが、ジニアスにとっての罪悪感になっていたようだった。

もちろん私のことは好きだったみたいだけど。

それからジニアスがパパと研究室で一緒にいるようになると、私よりもパパといる時間の方が増えてしまって、ますます二人でゆっくりいる時間はなくなってしまっていた。

この頃は家にもよく来るようになったので、パパの目を盗んではチュッチュしていたのだけど、当然それ以上することはなかった。

なんだか、それなのにもう家族みたいに一緒に居る。

結婚ってなんだろう?

子供を作る為に必要だからなのかな?

だったらまだママのことがあるから考えられないな…

でも、もう結婚しているみたいだよね?

だって、私のベッドで寝ている男の人なんて、パパ以外ではジニアスしかいないもん。

ジニアス…

ジニアスは私に交わした覚悟を、目に見える形で一所懸命がんばって全うしている。

だけどそれは“私の為”が根底にある。

だからジニアス。

私はあなたに私の全てを捧げます。

二十歳の誓いとして。

…………………………

あー…なんだか私も眠くなってきたな…

ジニアスの隣で寝よう。

向こうを向いてスピスピ眠るジニアスに後ろからぴったり抱き付いて私も惰眠をむさぼった。

夕方。
目を覚ますとジニアスが隣で私の顔を見ていた。

「あ…起きたの?」

「うん、ちょっと前にね。おはようアイハ」

「えへへ、おはようジニアス」

「もう夕方になっちゃったね。ゴメンよ、すっかり寝てしまって」

「ううん、私も寝ちゃったし。少しは疲れ取れた?」

「うん、おかげさまですっかり元気だよ」

「良かったぁ」

「指輪…付けてくれたんだ…」

「うん。すごく可愛くて気に入っちゃった♪」

「アイハ」

「うん?」

「誕生日おめでとう」

「にゃはぁ、ありがとう~」

「映画、見に行こうか」

「ううん、また今度にする。今はずっとこうしてたい」

「そう?」

ジニアスが頭を撫でてくれる。気持ちいい。

バン!
「ジィ~ニィ~アァ~スゥ~ッ!!」

「ラブイズさん!いや!これは…!」

「パパ!?」

振り向くと、鬼瓦のような形相でパパはベッドにいる私達、いや、ジニアスを睨み付けていた。

「…私が寝ている間にアイハに手を出すなんて上等だなァ…!?」

怒り過ぎて震えている様子が秀逸だ!

「ラブイズさん!ホント違います!違います!」

「チュウはした」

「な!?アイハ!?」

「チュウ~ッ!?」
タコみたいな顔でパパがドシンドシン近付いてくる。ジニアスは顔面蒼白だ。

「ちちちちち違います!違います!ホント何かの間違いですッ!」

「間違いだぁ!?貴様…うちの娘と間違いを犯したとでも言うのか…!?」

「いや!寝てただけです!寝てただけです!」

「なぁに~?あの甘々トークはなんだ…?」

「パパ!聞いてたの!?」

入り口を見ると、空のコップが置いてあった。盗聴だ!

「ラブイズさん!」
とジニアスがベッドから飛び出して、ジャンピング土下座をする。

「ジニアス…」

「おと…ラブイズさん…」

「…お義父さんでいい」

「!!」

「アイハ…孫は男の子がいいな」

「パパのバカ!盗み聞きなんてしちゃだめだよ!」

「いやぁだって気になったんだもん」

「だもんじゃない!」

「ラブイズさん…お義父さんって呼んでもいいんですか…?」

「まぁもう息子みたいなものだろう。アイハも二十歳になったし、たまにはいいよ。ただまだ外ではダメだ」

「ラブイズさん…」

ジニアスが男泣きに泣いた。
やっぱりなんだかんだで嬉しかったのだろう。さっきの顔面蒼白も本気っぽかったし。

「でもおまえ達、あんまり家でイチャイチャするなよ。私の居場所がなくなるからな」

「はぁい」

「うっ…うっ…わかりました…」

「ほらもう泣くなジニアス。アイハと映画を見に行くんだろう?早くしないと暗くなっちゃうぞ」

「はい…ずみまぜん…」

「じゃあパパも準備するかなー!」
そう言って伸びをしながらパパが部屋から出ていこうとした。

「パパ」

「ん?なんだい?」

「ありがとう」

「うん…アイハ」

「うん?」

「誕生日おめでとう。
生まれてきてくれて、ありがとう」

パパはそう言うと洗面所に向かっていった。

“生まれてきてくれてありがとう”

パパのその言葉が胸の奥に響いていた。

「グス…いい…お父さんだよね」

「うん…最高のパパだよ」

「よぉし!僕もラブイズさんに負けない、いいダッドになるぞ!」

「パパね、男の子がいいってさ♪」

「結婚…してくれるの!?」

「いやぁ…それはまだかなぁ…?」

「うん…そうだ…ね。でもいつか、必ず。僕待ってるから」

「うん、約束します。その時は私の全てをあなたに捧げます」

「アイハー!」

「ジニアスー!」

ぎゅうぅと抱き締め合う二人。

そしてドアの隙間から私達を見守るパパ…

パパ!?

シャコシャコ歯を磨きながら、じーっとこっちを見ている。

私とジニアスもじーっとパパを見る。

じー…

すっ、とパパはまた洗面所に向かって口の中の歯磨き粉を吐き出すとガラガラガラガラ…と口をすすぎ、ペェッと吐き出す音が聞こえた。

ペタペタペタ…

じー…

また見てくる。

私とジニアスもじーっとパパを見る。

「フッ…」

とパパは笑ってリビングに行った。

勝った。

リビングではガチャガチャと音が聞こえていた。

私とジニアスは抱き合ったまま、まだドアから視線を外してはいない。

ペタペタペタ…

パンパンパン!

「痛ッ!痛ッ!イタタッ!」
「痛!痛て!ラブイズさんちょっと!」

オモチャの銀玉鉄砲を持ったパパは腕だけを出して私の部屋を乱射していた。

「パパッ!!」

その後、『もう二度と人に向けてオモチャの鉄砲を打ちません』という反省文をパパに書かせた。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
スポンサーリンク