第198話 《アイハ》48

そうしてから、パパが「じゃあ準備があるから二人は外に出てきなさい。7時までには帰ってくるように」と、半ば強引に家から閉め出された。

ジニアスが
「映画見に行く?」
と聞いてくる。

「ううん。もう時間無いし、うーん。そうだ!ジニアスとパパの作業着の替えを買いにいこう!」

「いや、今日位はアイハの行きたいところに行こうよ」

「私の行きたいところ?じゃあ新しい作業着を買いにレッツゴー!」

ジニアスはやれやれといった感じで「じゃあ行きますか」と車を発進させた。

近所のワークショップへ着くと、ジニアスの方が目を輝かせて「あの電動ドライバーの新機種が出たのかッ!」とか「このシリーズはパワーがイマイチなんだ」とか男の子っぷりを発揮していた。

ジニアスも仕事で使う道具もたんまり仕入れて、ご満悦の様子で山程色々研究所(倉庫)宛まで送っていた。

私は二人が着る新しい作業着を物色していたけれど、やっぱりあのブルーの作業着が耐久力、汚れ落ちに優れている為、そこに落ち着いた。

帰り道にコーヒーショップに立ち寄ると、ジニアスは今日の戦利品について熱っぽく語った。

「やっぱりカタログと違って現物に触れられるのがイイね!規格外になるからマニュアルは細かくなるけれども飛躍的に作業効率が進むよ!例えば8mmの電線を使うより12mmの方が送れる電力は増えるんだけど、その分処理をするスピードが上がる。そして余剰分のパワーをあそこに流せば…いやいやいやいや、早く試したいよ!」

ジニアス…

初めて会った時にサカナクンさんの話を熱く話していた頃を思い出した。

たまにハコフグハットの話をすると、本人的には黒歴史だったようで「止めてくれよ!」と顔を赤らめる。今でもサカナクンさんは尊敬しているようだ。

「あ、もうこんな時間だ。そろそろ行こっか」

家に帰るとなにやら薄暗い。
「パパ出かけちゃったのかなー?」

ジニアスと一緒に玄関の鍵を開けて中に入ると、
パンパンパン!
「ハッピバースデーアイハ!!」

と薄暗がりから鼻眼鏡を掛けたパパがクラッカーを鳴らしてきた。

ちょっとびっくりしていると
「さぁさぁ入った入った!」
と私とジニアスをリビングに招き入れる。

テーブルの上には熱々のグラタンとコーンスープ、鳥の唐揚げと大きなケーキが真っ赤なテーブルクロスの上に並んでいた。

「パパ…これ…」

いつもママが私の誕生日に用意してくれたごちそうだ…

私の両目から涙がポロポロ流れ落ちた。

「いやぁ!ママみたいにうまくいかなかったけれど、一所懸命作ってみたよ!さぁさぁ席に座って!」

パパは普段以上のテンションで私とジニアスを席に座らせる。

「じゃあ…ロウソクに火を点けるよ…」

シュボッ…とマッチを点けると、薄暗がりのリビングがぼんやりと明るくなった。

パパが一つ一つロウソクに火を灯していく。

部屋を見渡すと、折り紙で作った色とりどりの飾り付けの真ん中に「ハッピーバースデーアイハ」の文字があった。

まだパパもママも元気だった3歳の誕生日。

そのままの光景がそこにあった。

パパが笑っていて、ジニアスもにこにこしている。

そして20個目のロウソクに火を灯された。

「さぁ全部点いた。みんなでハピバースデーを歌おう!

さんはい!
ハッピーバースデーアイハ~
ハッピーバースデーアイハ~
ハッピーバースデーディアアイハ~…
ハッピーバースデーアイハ~

おめでとう~!

ほら!火消して!」

ふぅ~とローソクの火を消すと、パパとジニアスがパチパチと拍手をしながら「おめでとう!」と口々に言ってくれた。

「えへ…ありがとうパパ、ジニアス」

「はいアイハ」

とパパが包みに入った箱を差し出す。

「プレゼントだよ。開けてごらん」

包装紙を丁寧に開いて箱を開けると…

そこにはあの時計が直っていた。

パパがマシンに入る前に私にくれた時計。

踏み潰されて時の止まったままの時計…

新品のようになって、しっかりと時を刻んでいる。

「…パパァ…パパァ…」

「うん…うん…
きっとさ…ママの時間もさ、またこの時計のように動き出すよ…」

パパも鼻眼鏡の中から目を真っ赤にさせていた。

ジニアスが優しい顔でこっちを見ている。

「お義父さんに付けてもらいなよ」

「…うん…」

「あぁ、どれ、手を出してごらん」

言われるままに左手を差し出すと、パパは優しく私の手首に時計を付けてくれた。

「ちょっと…幼すぎるかな…?」

ピンクの大きなハートのついたその時計の、目一杯まで端のベルトの穴にパパが留めてくれた。

あの時は一番小さくしてもくるくる回っていたあの時計が、今は一番大きく付けても少しキツイ位になっていた。

「…ベルトだけ今度買い換えようか?」

「いや…このままでいい…」

「うん…そうか…じゃあごはんを食べようか!冷めてしまわないうちに食べて食べて!」

「あ!じゃあお義父さんいただきます!」

「おぉ食え食え!」

「パパ…ありがとう」

「うん、アイハもいつもありがとう」

「えへへ…すごいね、これ」

「だろう?ちょっと焦げたけれど、味はまずまずだと思うよ」

その言葉通りちょっと濃い目の味付けだったけれども、とても美味しかった。

ピンポーン

「あら、誰かしら?」

「僕が行ってくるよ」

「さぁアイハ飲め飲め!」

その時玄関からジニアスの
「あぁッ!」
という声が聞こえた。

「アイハーッ!」
「アイハちゃーん!」
「ガハハハハッ!おるかーッ!」

ジニアスファミリーだ!

「ケン大老!」
パパは鼻眼鏡を吹っ飛ばしてびっくりしている。

「シィエお姉さん!外出て大丈夫なんですか!?」

「アイハちゃん!誕生日おめでとう!お祖父様がね、今日の為に装甲車並の車を作ってくれたの!アイハちゃんの誕生日だから特別だって!久しぶりに外に出たの!」

「アイハ!食事もいっぱい持ってきたわよ!ささ!ジニアスちゃん運んで運んで!」

「マァームッ!」
ジニアスは早速使われている。

ピンポン

「アイハーおめでとう!」

「おじいちゃん!」

「マリーも連れてきたぞ。せっかくのアイハの二十歳の誕生日だからな!」

「おばあちゃんも!?」

「うっうっ…アイハちゃん…良かったね…ぐす…」

「テムズさん!」

それからはなし崩し的にみんなで宴会が始まった。

ジニアスママがずっと話続けていたり、テムズさんがそれを聞いて感動して泣いていたり、パパがまたジニアスに銀玉鉄砲を乱射したり、おじいちゃんがケンおじいちゃんに強いお酒を飲まされていたり、シィエお姉さんと私の部屋に行ったり、パパがジニアスにお酒を浴びせたり、二人で裸で踊り出したり、ジニアスのお腹にピョ〇吉をマジックで書いたりとやりたい放題だった。

私は少し落ち着いてから、おばあちゃんと一緒にみんなの姿を見て笑っていた。

「ぁ…ぁ…」

おばあちゃんの方を見ると、おばあちゃんが確かに笑っていた。

無表情で口をポカンと開けたまま、おばあちゃんは確かに笑っていた。

左手にはジニアスの指輪とパパからの腕時計。

みんなからたくさんの幸せをもらった最高の二十歳の誕生日だった。

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