第200話 《アイハ》50

翌日、施設長に話を聞く機会があった。

ラモル施設長は50代の女性施設長で、私は高校生の頃からお世話になっている。

私はまだ学生ということもあり、今はアルバイトという名目として働かせてもらっていた。

ラモル施設長は良い意味でドライだった。

常に合理的な行動を考え、施設の中に小さな“国”を作り上げていた。

利用者目線の考えは、“利用者の真の幸福を尊重する”理念の元に初老者、中老者、功老者、重老者に分けられ、合理的で理想的な老人社会として運営されていた。

初老者はまず施設に入ると仕事の中から出来るものを選び、それに従事する。中老者はそれをサポートし、功労者は指示を出す。重老者は自分で動くことの出来ないサポートされる側の人達で、おばあちゃんは重老者にカテゴライズされていた。

平均寿命が伸び、新しい高齢化社会のモデルケースとして作り上げられたこのシステムは、一見社会がうまく回るように見えてその実、過剰医療費に対する問題や、重労働者の皆無など色々な課題を抱えていた。

社会の枠組みとしての様々な事案を、一つ一つ解決していくラモル施設長は弁護士としての顔も持ち、法的な部分から老人社会の道徳まであらゆることを任されていた。

「あなたが抜けることは他なりません」

ラモル施設長は眼鏡をクィッとあげながら冷淡な目でそう言った。実際はすごく優しい人だけれども、その話し方と無表情に近い顔のせいで、職員からは『鉄火面』と呼ばれていた。

「施設長、どうしてですか?私まだバイトなんですが…」

「はいアイハ、理由は3つあります。

一つ、あなたはこの施設の“アイドル”だからです。あなたがいるだけで場が明るくなります。“アイドル”が老人社会に必要なことに気付けたのは、私にとって非常に有力なことでした。今、あなたをベースに“老人社会とアイドル”の有効性についての状況分析をしています」

アイドル!
知らんかった…私、老人社会のアイドルなんだ…
確かに年寄りにモテる傾向は否めない。施設に来ると飴もらい放題食べ放題だ。

ラモル施設長、そんなこともしてたのか…

「二つ目は、今居る利用者達についてです。アイドルであるあなたが居なくなることによって、少なからず落胆はするでしょう。施設の仕事としてはまだアルバイト程度ですが、それでも職員からは信頼も厚く感じています」

いやぁ、そう言われると悪い気はしないですけれど…

「3つ目は、資金のことです。マリーさんがいる限り当面は大丈夫ですが、この施設や大学自体がほぼ劉ファミリーからの支援で成り立っています。あなたがここに居てくれる限り、この研究が打ち切られることはなく、さらに様々な恩恵を得られます。

以上、3点の理由により、当施設から席を外すことは、運営上、利用者並びに職員の精神衛生上に許可しかねる案件と考えます。話は以上で宜しいですか?」

お金か…そうだよね…なんだかんだ言っても、お金が無いと何も出来ないもんね…

さすがドライでリアルなラモル施設長。

なんとなくぐぅの音も出ない。

「…わかりました。逆に言えば、3つの問題が解決出来れば、私の思うように行動しても宜しいでしょうか?」

「NO。
私はあなたを離しません。それはあなたが必要な他に、私はあなたが好きだからです」

ラモル施設長は上から押さえ付けるような冷たい目でそう言い放った。

このギャップ。
このギャップが職員や利用者達を骨抜きにする。

めっちゃ冷たい目線と声色なのに、話の内容がハートフルなのだ。

それは普段の態度から表れている。

何をするにしてもいちいち“有難う”を欠かさなかったり、利用者達がつまずく恐れがないような小さな障害物でさえ、自らが動き移動させたり、気遣いがとても女性らしく細やかなのだ。

「いやぁ…」
思わず頬がさくら色になりますよ。頭をポリポリかいていたら、

「ではこれで」

と立ち上がり、スタスタ歩いて行ってしまった。

むむむ。
なんかちょっと色々難しそうだ。

私も昨日は勢いでおじいちゃんの代わりになるとは言ったけれども、以外と簡単には行かないのかも知れない。

最初から出来ないと言うのは嫌だけど、ちょっと考えなしに言っちゃったかなぁ…?

はて待て、とりあえずまずはおじいちゃんにも聞いてみなきゃだね。

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