第202話 《アイハ》52

次の日の朝、珍しくパパがコーヒーを淹れてくれた。

「おはようパパ、早いね」

「アイハおはよう、昨日はごめんよ。コーヒー飲むかい?」

「あ、もらおうかな。昨日のことはもういいよ。私こそ大人気なかったから」

「うん…パパもね、あれから色々考えたんだ。
きっとキャロラインさんもキャロラインさんなりの正義があるんじゃないかって…」

「もういいよ。私も気にしないから」

「うん…でもキャロラインさんが困るかと思って…」

「私が気にしなきゃいいでしょう?なんで?パパあの人のこと気になるの!?」

「まぁ落ち着いて聞いてくれるかな…
例えばキャロラインさんの気持ちになった時に、我々の力はこの地域では強大だ。
きっと彼女も後悔しているんじゃないか…?そう思ったんだ…」

「別にいいじゃないどうだって。それはあの人が自分で招いた事でしょう!?」

「うん…
“思考の方向性が人生を決める”とした時、そして“正しい人間関係が幸せを呼ぶ”とした時、相手のことを知らないまま、ただ感情に任せてはいけないと思うんだ」

「はぁ?じゃあ知らない人に何言われても黙ってニコニコしてろって言うの?そんなの私には出来ない!」

「いや…そういうことじゃないんだ。
アイハ、大切なことだとパパは思うんだ…」

「私はパパの研究対象じゃない!小難しい話をいつも並べて!理想だけ語るなら誰だって出来るよ!もう朝からイライラする!せっかく気持ちよく起きたのに!
パパなんてだいっきらい!!」

「アイハ…」

ツカツカツカ
バタン!と不機嫌に自分の部屋の戸を閉めてベッドに転がり込む。

なんなのッ!
なんなの朝からッ!

パパはパパの理想を追ってばかりで!

散々色んな人に迷惑掛けてるクセに偉そうに!

私の気持ちなんてこれっぽっちも考えてくれない!

パパのバカ!パパのバカ!バカバカバカバカバカバカバカバカバカ!

ふぅ~!
ふぅ~!

…全部あの人が悪いんだ。
私がこんな思いをするのも…
あの人が悪い。
あの人が。

私を傷付けた。
パパにもなんだか怒られた。
あの人があんなに私を傷付けたのに、パパはあの人を擁護する。

私が悪いっていうの!?

なんなの!?
なんなの一体!?

ひどい。
あの人もパパもひどい。

私はただみんなが上手く行くように考えているだけなのに!

ふと時間を見ると8:00を過ぎていた。

気だるい鉛が乗ったような身体を起き上がらせる。

ベッドの上で一人。

世界中にたった一人になったような気がする。

心の中に渦巻く黒い何かが私の心臓を締め付ける。

苦しい。
苦しい。

ママ…!

その時、初めてママの気持ちがわかったような気がした。

そばに誰かが居ても、心はたった一人ぼっちのような…

ママ…

ママ…

たまたま休みだったその日に私は、ただベッドの上で惰眠を貪った。

そしてその胸の苦しさは消えることがなかった。

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