第203話 《アイハ》53

そしてその日から数日経った。

キャロラインさんは私を無視し続けている。会話は事務的なものしかない。

その時を境に職員から私を見る目付きが変わったような気がする。

きっとあの人があることないこと周りに吹き込んでいるに違いない。

私は段々と周りの目線が気になっていったけれど、気に留めないように努力した。

パパとジニアスとはいつも通りに過ごしている。

あの事をジニアスには言っていない。

言えばどこからかあの人のことがあのファミリーに伝わってしまう。

そうした時にひょっとしたらあの人を排除しようとするかも知れない。

それは私も望んでいない。

私が我慢をすればいい。

私だけ黙っていればそれでいいんだ。

介護の仕事を辞めたいとは思わなかった。

辞めてママの為の仕事を考えたことには勢いもあったし、何より利用者さんが私をいつも温かく迎えてくれた。

必要としてくれている限り、また、他の誰かが、私の代わりになる誰かがいれば仕事に支障をきたすことはない。

そう考えるに至った。

おじいちゃんは相変わらずおばあちゃんのところに通いづめだった。

そしてある日の夜、パパが私とジニアスに言った。

「お義父さんを呼ぼうと思う」

「ブシおじいちゃんを?」

「ラブイズさん…ブシおじいさんですか…?」

「うん、私も色々考えたんだけど、ジニアスのサポートに入ってもらおうと思うんだ。どうだろう?」

「どうだろうって…ブシおじいさんって大工ですよね?システム的なことは出来ない…ああ、そういうことですか」

「え?なになにジニアス?どういうこと?」

「いや、つまりシステム的なことは僕がやって、マシンの組み立ての方をブシおじいさんにサポートしてもらうって、そういうことですよね?」

「うん、ただそれだとまだ父さんの穴は埋められない。だからタローとジローを使う」

「タローとジローって、前に私に話し掛けてテムズさんにボコボコにされたあの二人?」

「うん、そう。あの二人は我流なんだけど機械とかシステムとかに詳しいんだ。いっつも小悪党みたいなことばっかりしているから丁度いい機会だろう。
教えるのは時間が掛かるかも知れないが、システムの維持には最適だろうと思う。あいつらはいつも暇だからなぁ。近くに部屋でもあげれば24時間でも見てくれるだろうさ」

「…パパとあの二人ってどういう関係なの…?」

「あぁ、ちょっと昔ね」

「昔?」

「まぁ弟みたいなもんだよ」

…パパやっぱり昔悪かったのかなぁ…でもずっと勉強してたって言うし…今度あの二人に聞いてみよう。

「ラブイズさん話はわかりました。で、ラブイズさんはどうするんですか?」

「私は父さんのシステムの改良に取り掛かる。ジニアスも感じている通り、ナノマシンからコンピューターへの投影がまだスムーズに変換しないところもある。やはり、現場を知らないで頭の中での構築だけではリアルにことは進まないからね。もちろん君達に指示も出していく。ようは総指揮を取りまとめていくことにするよ。それでアイハ」

「はい」

「君には我々のサポートをして欲しい。その中でもちろんマシンに携わることもあるだろうけど、生活の部分をお願いしたいんだ」

「うんわかった。でもそれじゃあいつもと変わらないんじゃない?」

「いいや、お義父さんも来るし、出来る範囲でいいんだけれども、タローとジローのこともサポートしてやって欲しいんだ。あいつらは基本的にだらしないからね」

「そうか、わかった!」

「ラブイズさん!アイハを半グレのようなヤツラに会わせられないですよ!だめ!絶対!」

「そうかジニアス、じゃぁ何か他にいい案はあるかい?」

「僕が2倍働きます!」

「悪いけどそれは却下だ。もう十分に君は働いてくれている。つまり現実的な案ではない」

「じゃあ僕が誰か連れてきますよ…」

「それもいいかも知れないけどねジニアス、また誰かを連れてきた時に私はその人がどんな人か知らない。どこまで意志が通じるか、イレギュラーはなるべく減らしたいんだ。
その点あの二人は…いうなれば『器用なバカ』なんだよ。私の言うことは聞くし、そこにシステムの疑問を持たない。よってスピードを重視した時に、彼らを使うことが私の計画には適切なんだ。ただジニアス、今は力になる人なら誰でも欲しい。だから君の眼鏡に叶う人なら一考してみるよ。誰か居たら紹介してくれないか?」

「そういうことならまぁ…わかりました」

「ありがとうジニアス。アイハもいいかい?」

「うん、私がんばるね!」

「アイハ…僕は変な奴等に絡まれないか心配だよ…」

「まぁ大丈夫だよ。そんなに心配するな。
それよりアイハ」

「うん?」

「施設の方はどうだい?」

「…うん、まぁぼちぼちだよ!」

「そうか、何かあったらいつでもパパに相談しておくれ」

「わかったよ。ありがとうパパ」

ふいに寂しそうなパパの横顔が見えた。

パパ。

何か感じてくれているんだろうか。

私が施設で上手くいっていないと感じていることを…

「そんな訳でお義父さんには連絡しておいたから。アイハ、今日の午後一に空港まで迎えに行ってきてくれるか?」

「え~!今日の午後~!急過ぎる~!」

「難しいか?」

「いや、大丈夫だけどブシおじいちゃんはいいって言ったの?」

「二つ返事だったよ。さすがサムライだよなぁ」

「そこは“武士”だよパパ!」

「ブシ?」

「そう、武士」

「そうかぁ」

絶対わかってない。

そんなこんなでパパのチームにはブシおじいちゃんとタローとジローが加わった。

そしてそのすぐ後だった。

世界中の全てのインターネットが不通になったのは。

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