第204話 《アイハ》54

世界中からインターネットが無くなった日、世界は騒然となった。

金融期間は麻痺し続け、銀行の窓口に人が溢れ続けた。

電子取引をしていたほとんどの会社は機能を停止し、ただ地に足を着けて地道に仕事を続けていた会社が残った。

一時的に失業者が溢れかえり、自殺者が後を経たなかった。

世界は混沌の渦に飲まれて行ったかのように思えた。

テレビでは連日の混乱模様の様子の特番ばかりで、世の中が急に30年前に戻ったようだとパパが話していた。

私達は変わらなかった。

治安は一時的に荒れた様子を見せていたけれども、昔ながらの指揮系統を駆使し、すぐにケンおじいちゃんとシィエお姉さんが鎮圧した。

ママのマシンはその特異性から、全てのインターネットの環境からシャットアウトされており、維持するには変化が無かった。

その代わり、パパやジニアスが部品探しに奔走することになったけれども、いち早く到着していたブシおじいちゃんからの日本のツテもあり、早々に目処がたっていた。

ブシおじいちゃんはさすが変わらなかった。

公共の移動手段も麻痺し、日本に帰ることもままならない状態だったけれども、
「なるようにしかならん」
とのお言葉をいただいた。

40歳以上の大人の適応力には舌を巻いた。

混乱が起きてしばらくは困ったことが多いようだったけれども、サーバーの復旧が難しく、回復の見通しがつかないことを知るやいなや、すぐさま代替えの方法に辿り着いていた。

新たに開発されたそのほとんどのサーバーは公共のライフラインに縛られ、一般の人が使えることは無かった。

固定電話はその有効性が再認識され、仕事のその大半がファックスや電話でやり取りをしていた。

その為、固定電話が飛ぶように売れ、一時期は品切れ状態が続いた。

たった30年、無法状態であったインターネットの環境におかれた世界は、無情にもその便利さ故に、無くなったそのことに対する不便さと、その利益を得ていた主に40歳以下の人々に絶望を与え続けた。

そしてたくさんの喧騒の中で、キャロラインさんは自殺した。

40歳以下の自殺者を“インターネット難民自殺”とメディアはひとくくりにまとめて報道をしていた。

毎週のように葬儀に参列する中で、その出来事自体がライフワークに取り込まれていき、悲しみは徐々に薄れていった。

人生の大半を電脳世界に傾倒した人。

ライフワークにSNSが組み込まれていた人。

私にはわからないけれども、世の中にはそういう人がたくさんいるようだった。

あんなに許せなかったキャロラインさんがいなくなった。

けれども世の中はまた回っていく。

またいつの日か、インターネットが世の中を席巻する日は来るのだと思う。

今までが異常な状態だったんだと誰かが言い出した。

その言葉に先導されるように、世の中にはスローライフが持て囃されるようになった。

電脳世界に囚われた人々により、世界に精神病患者が爆発的に増えた。

人々は彼らを“ネットクラッシュの迷い子”と呼んだ。

キャロラインさんはその一人だった。

キャロラインさんにはネット上に彼氏がいた。

本当にいたのかはわからないけれども、少なくともネットで繋がっていた人達がたくさんいたようだった。

現実社会での鬱憤を匿名掲示板で晴らし、
自分の都合の良い時間に、都合の良い人達と親交を深めていく。

その行動は、現実社会での理不尽を真っ向から受け止めてくれる、自分の心をさらけ出せる唯一無二の場所であり、心を平静に保つ為の逃げ場所にもあるように思えた。

現実世界から逃げなかった人々が、今大地を踏み締めて生きている。

それはある意味、神からの制裁により選ばれた民であるとある宗教家は言った。

仮に第3次世界大戦が行われたとした時よりも、人口の減少は著しいとの見解もあった。

ただ、私にはわからない。

私はただ、現実を生きている。

変わったことなんて特にない。

ただ、ママを救う為。

それがみんなの仕事だった。

そしてそんな世の中になってからまた2年の月日が経過していた。

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